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追跡 9

 「なんでセックスしたいの?」  黄色がかったパジャマの目は不思議な光を宿している。    「なんでって」  そんなこと聞かれたことがなかった。  したかったからしてきた。    手を伸ばす。  そこにあるものに手を延ばす。  唇に触れる皮膚の感触、悶える組み敷いた身体、暖かな穴。  泣き叫ぶ声。  舐めとる汗は恐怖と快楽の味がする。  セックスの記憶。  普段は忘れている「彼」の幼い身体。  嫌がられない程度に指で確かめるように撫でる。  撫でる僕の指も幼い。  唇を味わうやり方もまだ拙い。  それでも唾液を交換しあった。  彼の味。  彼の唇が咥えてくれるのが嬉しくて、夢中で腰を振った。  彼の暖かな口の中に放つ。  彼は助けられなかった。   僕の愛する彼。  死んだ。  忘れた。  同じ「工場」の他の子達。  僕は彼らを捕まえて犯してた。  ストレス解消に。  彼を好きに出来ないやるせなさを彼らにぶつけていた。  容赦なく打ちつけられる腰に、彼らが僕と同じ顔を歪ませる。  「もっとして」  ねだられる  支配して、刻みつける。  彼らも死んだ。    僕が殺したようなものだ。  淫らで強欲な僕の育ての親。  僕は育ての親すら犯した。  目的のために。  でも、育ての親もまた、セックスしか知らない生き物だった。  廃棄を免れたセックスドール。  「もっと深く・・・ああ、そう・・・」   白い身体が波打って、僕を迎えいれる    育ての親は僕に犯されたくせに、逆に僕にセックスを仕込みさえした。  どうしようもない強欲で残酷で、やはり僕の親だった。  そして、殺した。    沢山犯した。  沢山殺した。  相手には困らなかった。  街で知り合い、誘い、誘われ楽しく寝た。  たまに殺した。  全員ころしたわけではないが、物足りなくて殺してしまった連中も沢山いる。  殺す方がセックスより興奮した。  僕は死体が好きだ。  死体を抱く。  情報屋もしていた時は、情報と引き換えにセックスもした。  価値がなくなれば、殺してからまた抱いた。  化け物になってからは・・・殺してから犯すか、犯してから殺した。  そして、ガキが現れた。  もちろん犯したのは僕だった。  セックス。  肌にふれ、貪る。  飢えたように貪る。  終わらない音楽におどる。  終わりのない穴に落ちる。  その落下速度に甘く酔う。  破壊衝動が弾ける。  壊したい。    犯した  貪りたい。  毎日毎日毎日毎日。  終わりなく永遠に。  ぐるぐると世界が狂ったメリーゴーランドのように回る。  甘く淫らな終わらないメリーゴーランド。    僕はめまいを感じ目を閉じる。  「なんでそんなにしたいの?」  またパジャマは聞いた。       パジャマの暖かな腕の中に抱き留められる。  「ボクはセックスを知らない。でも、あなたはセックスしか知らない。全部をセックスでしか理解できないだけ」  ただ暖かに包まれる感触に戸惑う。    ガキが眠る僕を抱きしめるのににてるけど、ガキはそれでも確かに興奮もしていた。  甘く、痺れるような淫らさもそこにはあった。  僕以上にアイツはシたがりだからな。  ガキは淫乱な上に絶倫のヤりたがりだ。  覚えてない赤ん坊の頃はこうやって抱かれたのだろうか。   物心ついた時には「彼」を抱きしめていた。  互いの不安を庇い合うようにずっと抱き締めあっていた。  あれはもう、セックスのようなモノだった。  「ボクがいるよ。あなたと同じボクがいる。ボクはあなたを責めたりしない。あなたはもう、怯えなくていい。セックスしたければすればいい。でも、もう、そこに逃げなくていい」  パジャマは優しく言った。  責める?  逃げる?  僕はパジャマの言葉を笑い飛ばそうとした。    誰が僕を責める?  誰から僕が逃げる?  でも、何故か笑えなかった。    唇が震えた。  「ボク達は生きていいんだ」  パジャマの言葉が妙に胸に刺さった。  ガキは。   僕を愛してくれる。   ガキは。  僕を許してくれる。  だから僕は。  でも。  僕が楽しむ前に獲物を楽にしてやるガキ。  僕がすることを責めないけれど、僕の変わりに苦しむガキ。  「許しなんかいらない。ボク達は生きていい」  パジャマの言葉が僕を追い込む。  なんだ。  なんだ、これは。  新手の精神攻撃か。  僕は何故か震える指を握りこんだ。    

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