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追跡 14
僕はベッドに座りうなだれていた。
ベッドの上には血塗れのガキが寝ている。
ベッドは大量の血でむせかえるような匂いがした。
生臭い、血の匂い。
ガキは再生を待っている。
噛みきられた喉は肉が蠢きあい、繋がり、もう血は止まった。
へし折った腕はもう繋がっていて、有り得ない方角をむいてはいない。
噛みちぎった乳首も、今は元通りだ。
ただ、流した血は戻ることはない。
だからベッドはびっしょりと濡れて、赤黒く光っている。
犬を呼んで始末させないと。
僕はそんなことを思った。
ガキの身体は再生する。
綺麗になおる。
それほどはかからない。
でも、そういう問題じゃない。
それくらい僕にもわかっていた。
僕は。
恋人を。
恋人を噛み千切り、腕をへし折った。
僕が本気で痛めつけるならこんなものでは済まないけれど、そういう問題じゃない。
八つ当たりだって良くしてるけど、コレは違う。
コレは違う。
いつもの可愛い過ぎて酷くしてしまうそれとも、八つ当たりや嫉妬してガキを困らせてのとはわけが違う。
例え、このベッドを同じように血で濡らしたとしてもコレは違う。
僕は両手で顔を覆う。
コレは。
コレは。
違う。
取り戻しがつかないことだ。
ガキがゆっくりと起き上がる気配がした。
僕は目を閉じる。
怖い。
怖くてはたまらない。
ガキの目は僕をどう映すの?
もうダメなの?
殺さなきゃいけない。
殺さなきゃ。
お前を手放してたまるもんか。
僕は固く目を閉じた。
暖かいものが僕を包み込む。
ガキが背中から僕を抱きしめていた。
「どうしたんだ、あんた。大丈夫か?」
心配そうな声。
いつもの。
いつものガキの声だった。
僕は・・・嫌われてはいない・・・。
僕は、僕は、僕は。
ガキにむかって怒鳴った。
その胸に抱き込まれたまま、顔を覆ったままで。、
「バカか!!お前は!!」
僕は怒鳴る。
「酷いなぁ」
ガキが苦笑する。
いつものように。
それが僕の怒りを煽る。
「酷いことはそんなことじゃないだろ!!僕に何されたのか分かっているのか!!」
僕は怒鳴る。
コイツは腕をへし折られながら、喉や乳首をかみちぎられながらレイプされたのだ。
「・・・・・・うん。悲しかったよ」
ガキは僕を抱きしめながら囁く。
その声に苦さがある。
だから、そうなのだとわかり、僕はいたたまれなくなり、顔を覆うのをやめて振り返りガキを睨みつけた。
ガキが静かな目で僕を見てた。
いつもと変わらない。
ガキだけは僕を、とても綺麗な大切な何かを見るような目で見る。
憧れのような、綺麗な何かのように。
ガキは何も知らないから。
僕の残虐さを知ってはいても、ガキは本当に汚いことなと何も知らない。
理解してない。
何も知らない子供のうちに僕がつかまえたから。
睨みつけ、怒鳴りつけようとする僕の頬に手をあててガキは言った。
「怒ってるあんたは誰よりも綺麗だ」
それは心からの言葉で。
「俺にはあんただけなんだ。あんたがどんなあんたであっても・・・」
ガキは僕の頬に自分の頬をすりつけた。
僕は泣く。
怒って泣く。
どうしたらいいのかわからなくて泣く。
ガキは僕の身体を軽々と抱き上げ正面から抱きしめ直した。
「酷いことし過ぎて謝ることさえ出来ないあんたが俺は可愛いよ」
なだめるようにガキに背中を撫でられ、僕はまた怒鳴る。
「うるさい!!」
僕の言葉にガキはさらに僕を強く抱きしめただけだった。
「あんた存外泣き虫って知ってる?」
その声には笑いさえ含まれていて、僕は僕は僕は・・・。
安心したのだ。
「抱きしめさせて。悪いと思ってるなら」
ガキがそう言ってくれたから。
僕はガキに抱きしめられることを受け入れられた。
とても抱きしめられたかったのに、僕には理由が必要で。
ガキの胸はとても暖かかった。
泣きじゃくる僕をガキはずっと抱きしめていた。
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