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追跡 15

 アイツは目覚めて、オレにキスしてきた。  いや、オレはそれを待ってた。  起きたらキスしてもらえると思ってたから。  唇が触れるだけのそれにオレは震えてしまう。  「酷い夢だったよ」  無邪気にこの人は夢の話を始めた。  オレの肩にもたれかかりながら。  オレはこの人の体温を感じて目を閉じる。  車はゆっくりと山道を走っていた。  運転しているのはグズだ。  グズはもう戦車のキャタピラ部分の運転も出来る。  あの人の母親、彼女が食べてきた男は自衛隊に存在したこともあった。  劣化コピーとはいえ、運転する分には問題ない。  オレ達の身体のスピードも上がっているはずだ。  彼女が戦った記憶もオレ達にはある。  映りの悪い動画みたいに曖昧ではあっても。  恐ろしい敵なのは十分それでもわかる。    「ボクをよんでる人がいたから一生懸命そこに向かって行ったのに、呼んでない、いらない、お前じゃないっていわれたよ。酷くない?」  あの人は夢の話を大真面目にぼやく。    「あんたをいらないヤツなんて放っておけ」  オレは本気でいう。  夢でもソイツはバカだ。  「ん・・・でもねぇ、多分その人が鍵なんだよね。ボクがこうなったことの。ボクはその人にあわなくちゃいけない」  あの人はオレに甘えるように微笑みながら言った。   「あんたが動けるようになって魔法をつかえるようになった理由?・・・そんなのどうでもいいことだろ?」  オレら心からそう思う。  オレ達は殺して喰ってセックスする。 それだけて十分。  追ってくる敵のことだけ考えればいい。  「うーん。でも会わなきゃ、て言うより会えるし」  あの人が難しい顔をした。    あの人は永く会話をしてこなかったので、うまく伝えるのが苦手なのだ。  「ソイツに会いたいのかよ?」  オレは胸の痛みを感じる    ソイツは食う。  この人が会う前に。   「うん」  この人が頷きながら笑ったので、オレはソイツが男だろうが女だろうが、めちゃくちゃにしてやると決めた。  ・・・女だったらオレ、セックスできないから、生きながら喰って、男なら泣くまで出させてヤり殺して、それから喰う。  「彼は僕と生きて行くんだ」  そうあの人が言ったから、絶対に殺すことをオレは決めた。  あの人には言わない。    嫌われたくないから。  「で、どこに行くの?」  あの人が尋ねた。     「ここは?」  あの人が不思議そうに言った。   静まり返った駐車場は広々としていて、従業員の車か少しあるだけだった。  山の匂いがした。  木と土と、夜の匂いだ。  「病院だよ」  オレは笑う。  あの人は不思議そうな顔をする。  こんな山の中に病院なんて、て思うのだろう。    あの人の知ってる病院は街の中にある大きな病院だけだ。  オレはオレが喰った介護士の記憶から、山奥の病院をみつけだしていた。  いわゆる、老人病院だ。  今では介護施設にとってかわれているが、まだあることはあるらしい。  まあ、この辺の知識もコピーだけどな。  ・・・死にかけた老人達の行き着く先だ。  現代の姥捨山。  早くいなくなることをのぞまれているか、もしくは財産の管理の名目で少しでも長く生きることを望まれている人間達のいるところだ。  ここで働いていた介護士の記憶はそうオレに告げている。  「安楽死させてやればいいのにな」  「こんなになってまで生きたくないよね」  「オレなら死ぬね」  その介護士は仲間達とそう言い合っていた。  そういう直接的な言葉じゃなくても、この病院を訪れる家族達がそのようなことを云う記憶も。  大丈夫。  そういう思いは老人達にはちゃんとつたわっている、  だからいい。  いらないモノと自分達を思いこませられている人達がいるここだからここがいい。  自分達が生きていることを望まれないことを知り、絶望しているからこそ、ここがいい。  「仲間を沢山つくろう」  オレはあの人に言った。  オレ達を追ってくるだろう。  敵は。  なら、オレ達を増やしてしまえば敵は追うのが大変になる。  そういうことだ。  「ここで魔法を使うの?」   あの人が首を傾げる。    オレは微笑む。  この人は「魔法」を善意で使う。   動けない人達が動けるようになるのは良いだろうくらいしか考えていない。  魔法が発動される条件が悪意であることをわかっていない。  自分の身体が動けるようになるためには、誰かの身体の自由を奪わなければならない。  その条件をクリアするには人間への悪意があれば十分だ。    「死ねばいいのに」  そう思われている人間達が、そう思ってる人間達を犠牲にするのにそれほど躊躇はいらない。  魔法が発動する可能性はここでは跳ね上がるはずだ。  魔法を発動させるのは悪意だ。  「お前らこそ、消えろ」  そういう思いだ。  怒りだ。   憎しみだ。  ここなら、さぞかし悪意がたまっているだろう。   オレはあの人に向かって微笑んだ。  この人は爆弾だ。  でもスイッチを入れるのは人間なのだ。  たまりきった悪意がはじけるのを思い、楽しくて仕方がない。  「さあ、沢山の人を救おう!!」  オレはあの人に向かって言った。     「うん」  あの人は真面目な顔で頷いた。              

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