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反撃 1
病院支給の味気ないパジャマを着たその若い女は、男の白い喉を齧っていた。
男の上に跨がって。
女のパジャマの前のボタンがいくつかはじけとび、白い胸が露わになっていたから、エロチックな光景とも言えたかもしれない。
ただ、女が【本当】に男の喉を齧っているのでなければ。
肉を食い破り、吹き出す血をすすっているのでなければ。
男が絶命し、悲鳴をあげたままの苦悶の表情でなければ。
それでも、男は苦痛と紙一重の絶頂を迎えているように見えなくもなかった。
女は若く、エネルギーに満ち溢れて、貪るように男の体を味わっていたから。
露わになった胸を男に押し付けながら。
文字通りの意味で、味わっていた。
部屋のドアを静かに開けた私を見て、その女、グールは唸った。
手に持つ銃のせいか。
食べるのを邪魔することがわかっているからか。
食べるのをやめて、物凄い力で男にのしかかっていた床から跳躍する。
獣のように。
素晴らしい跳躍力だ。
実に。
だが、しかし。
私は手にした銃で確実に打ち抜いた。
バン
額のど真ん中。
驚いたような顔をして女の額に穴があく。
私に牙が届くと思っていたらしく、驚いた顔をした。
脳のど真ん中に当たったことは分かっていたが、続けて撃つ。
弾は全て貫通し、女の脳の一部も宙にぶちまける。
なんてことない。
どんなに力が強くても、どんなに高く跳躍できても。
そんなことは問題じゃない。
本当に怖いのはお前達ではない。
力が強くて、殺しにくいだけの生き物だ。
床に転がった女の頭にさらに二発ぶち込んだ。
脳を確実に停止させる。
油断はしない。
「病院内のグールは全員射殺しましました」
部下の報告がイアホンから聞こえる。
「了解。何人殺し何人逃げた?」
「4人殺しました。逃げたのは3人です。でも山から外にはだしません」
部下が言った。
その言葉に間違いはないだろう。
部下達は狩る。
我々は猟犬だ。
たとえ人間離れしたパワーをもち、脳以外を撃たれない限りは死ななくても、「脳を撃てば死ぬ」のなら、我々は獲物を逃さない。
少年やあの男、捕食者はできる限り、出動させない。
グール達が喰えばその力を奪うのならば、彼らが万が一喰われたらあまりにも危険なことになるからだ。
我々で対処できる内は我々で対処する。
「見つけ次第殺せ」
私は命令する。
部下達は間違いなくそうする。
通報より早く我々はここにやってきた。
ヤツらを追ってきた結果だ。
おかげで朝一番から始まった惨劇は最小限で収まった。
昨夜の夜勤の職員達は嫌われものではなかったらしい。
老人達は夜勤者達を選ばなかった。
もっとも、朝まで魔法を発動させることについて、老人達はよく考えていただけかもしれない。
誰かの身体の自由と引き換えに自分の身体の自由を引き換えにすることを。
だが朝が来て決断は行われた。
部屋を訪れた職員達の身体の自由と引き換えに老人達はグールになっていった。
慌ててかけつけ、部屋の確認を行った、普段面識のない警備員まで喰われていることを考えると、早番の看護士や介護士が特別嫌われていたわけではないのかもしれない。
とにかく、彼らは選ばれた。
老人達の身代わりに身体の自由を奪われたのだ。
そして、身体が動けなくなった職員を喰っている最中に我々はやってきたわけだ。
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