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反撃 2

 「捕食者【目覚まし】とグール【ダルマ】【迷子】は?」  私は尋ねる。  答えは分かっている。  「逃げられました」  部下の答えは想定通りだ。  【目覚まし】、あの男が【パジャマ】と呼んでいる捕食者と、同行するグール達を追ってきたのだが、この騒ぎでまた逃がしてしまった。  というより、こんな騒ぎを起こすことによって逃げるために、捕食者は能力を使ったのだろう。  【目覚まし】の考えか?  いや、目覚ましは今までの捕食者とは違い、【人を殺さない】捕食者だ。  逃亡も、むしろグールに連れられて逃げている感じがする。  母親に会いに行く動機はあっただろうが、長く世界から隔絶されていた【目覚まし】には追われているという自覚すらないだろう。  おそらく【ダルマ】がリーダーだ。  同行している二人のグールのコードネームは男の呼び名を拝借した。    手足を切り取られ、性奴隷にされていた男を【ダルマ】、難病で寝たきりになっていた少年を【迷子】と呼んでいる。  【ダルマ】が考え動き、それに従っている、少年のグール【迷子】と捕食者【目覚まし】そういう構図が見えてくる。  人を喰う必要がある【迷子】と【ダルマ】はセックスも必要なようでセックスをしている。  被害者以外の精液は常に同じ二人のものが、常にあるからだ。    【ダルマ】は【目覚まし】を守り、【迷子】と人を襲い、被害者や【迷子】とセックスをくりかえしながら逃亡している。   そう、グール達は不思議なことに人間だった頃とDNA自体は変わっていないのだ。  捕食者やグールを説明する科学的な仮説さえない。  馬鹿げたことに。  とにかく本来、人間を虐殺してまわるか、従属者をつくりセックスに明け暮れるはずの捕食者が性交の跡がない。  【目覚まし】はあまりにも規格外だ。  とにかく、リーダである【ダルマ】は賢い。  「性奴隷にされたいたようなところででも生き抜いてたんだ。しかも【ダルマ】にまでされたんだろ?何度も逃げようとしたからだ。それでもまだ生き延びた。普通【ダルマ】にまでされたなら、絶望であっと言う間に死ぬ。【ダルマ】はホンモノのサバイバーだ。絶対に諦めないし、賢い」  あの男がそう言っていた。  おそらく、あの男もそうなのだ。  だから間違いない。    男もダルマも、普通なら絶望し死ぬところを生き延びて、化け物になった。   もっとも捕食者になる前からあの男はホンモノの化け物だったが。  人を弄び殺す、化け物だ。  その男が言うのだから間違いない。  【ダルマ】は危険だ。    【目覚まし】の能力は、身体が普通に動く人々の間にいる限りなんの役にも立たない。    身体を動かすことができない人間のみをグールに変えると言う能力には戦闘能力は全くない。  グール達が人を殺すのはその結果ではあっても、グールになることをえらぶのも誰を殺し喰うのにも、【目覚まし】の意志などそこにはないのだ。  精神攻撃をしてきた【詐欺師】という捕食者もいたが、今回の捕食者の能力は対捕食者にたいする能力としては全く役に立たないのだ。  だが、非常に厄介な力ではある。  でも無秩序に多量殺戮を繰り返す捕食者達ほど恐ろしくはない。  前に人間を植物化させる能力を持っていた捕食者もいた。  【相方】と言われた捕食者だ。  植物化された人間達は、意志を持って行動し、集まり、この社会に反旗を翻した。  自分達の世界を作ろうとしたのだ。  人間を排除して。  それにくらべたなら、グール達は意志はあるがただ喰らうだけで、グール同士で何かしようとかそういうものは感じないのだが・・・。  「最優先は病院から逃亡したグールだ。人を食べて知識や技術を増やされたなら厄介だからな。まだ知識や技術が少ない内に殺せ」  私は言った。  人の知識や技術者といった「能力」まで得られるは厄介だ。  出来るだけ早く殺さねば。  少しばかり強くなり死ににくいだけならば、脅威ではない。  「病院にいる、グールになる可能性のある老人達はどうしますか?」   部下が尋ねる。  「カメラを解析し、【目覚まし】が接触した患者だけを隔離しますか?」  部下の質問に対する答えはもう決まっていた。   【パジャマ】達は上手にカメラを避けていた。  誰に接触したかを完璧に確認はできないだろう。    それに命令はもう受けていた。  「いや、この病院にいる動けない老人達全員を殺せ。苦しませるな。生き残った職員達はうまくごまかせ。この病院は死体ごと燃やす」  私は決まった事実のみを伝達する。  誰がいつグールになるかわからないし、今グールにはならないと決めていても、明日どうなのかわからない。  いや、この世界には身体が動けないだけてその人間達を死んだ方がいいと望む者で溢れている。  その憎しみは、今グールにならないとしていても、いずれ老人達をグールに変えるだろう。  それに老人達はどのみちもうすぐ死ぬ。    ここは普通の施設では扱えない、医療が必要な老人達の病院だからだ。  少し早めるだけだ。    とにかく上はそう判断したし、私は従うだけだ。  この手は汚す為にある。  「相手の正面には立つなよ。決して苦しませるな」  私は続けて言った。  相手の身体の自由を奪うことができるのは、どうやら正面に相手が立っている時であることも、今までの映像解析からもう分かっている。  「この世界にグールをこれ以上一人も出すな」  私は命令した。  私の命令で沢山の人が殺される。  明日死ぬかもしれない老人だからと言って赦されると思うほど私は愚かではない。  男は最悪の殺人鬼だか正義の味方だ。  本人の言う通り。  男なら違う判断をしたかもしれない。  上も男の言うことは尊重する。  だが私は単なる権力の犬だ。  命令を遂行するだけだ。  ただ思った。    少年がいなくて良かった。     妻には死ぬまで隠し通すつもりだ。    汚れたこの手で彼女を抱きしめ続けることに決めたから。。   彼女を汚すことにもう何の躊躇いもない。  全てがばれたとしても、彼女を逃がさない。  彼女を引きずり落とし汚し、手放さない。  でも、私にも。  一人くらいは、綺麗な人間のふりをしてその前に立っていたい相手はいるのだ。  

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