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反撃 3

 食べるものはえらばなければならない。  オレ達はあの病院では誰も殺さなかったし、喰わなかった。  あの人が善意だと信じて一人一人に魔法とやらをかけている横で、殺して喰うのも気がひけたし、変にオレ達の爪痕を残すのは、逃げるのに良くないと判断したからだ。  まあ、あの人はオレ達が殺して喰うことは大したことではないと思ってはいる。  人間が魚を食べるようなものであるとの理解で、多分あの人はオレに食われても文句は言わない。  まあ、あの人は食えないし、食えたとしても絶対に食わないけど。    あの人を喰うな、と本能が警告のようなものを告げる。  あの人はオレ達の食料にはならない、そう知っている。  それに喰ってたまるか。  喰えるものだったとしても、どんなに飢えていたとしても、自分の手足を齧ってでも、あの人を喰わない。  抱きしめられることさえ望めないのに、喰ってたまるか。    とにかくこれ以上看護士や介護士の知識はいらない。  喰いあきた。  強くかしこくなるために、相手を選ぼう。  食事はとても大事だ。  と、いうわけで。  きちんと食事をするためにも、よく知る場所がいい。  オレは古巣に戻った。  正確にはオレがいた地獄があった街だ。    言葉も奪われ、意志を示す方法がかぎられてしまったオレからは大した情報がとれなかったからこそ、オレについてあまり追ってくる連中は知らない。  だからまだオレの地獄は存在するはずだった。  腹を減らして文句ばかりいうグズを怒鳴りつけ、運転を交代し、また眠ってしまったあの人がさむかったりしないように気をつかいながら、オレ達はあの街へ向かった。       いつもの眠りではなく、魔法を使いすぎて疲れたのだろう。  寝る前にしてくれたキスの感触に思いをよせる。  唇に触れてしまう。   どんなセックスよりこれが好きだ。     追跡はすぐに再開されるだろう。  オレ達があの施設を出てすぐに、車が何台もあの施設に入るのを確認している。  紙一重だった。    車のライトを全て壊しておいて正解だった。  今のオレ達には夜は昼とかわりないから、ライトが無くても運転できる。  だがすぐに追ってくる。  それまでにアイツらの知らない逃げ方を知る必要がオレ達にはあった。    だからこの街に来た。  この街はいい。  闇が沢山あるから。  闇はオレ達を隠してくれるだろう  闇を喰って闇になり、オレ達は隠れられる。

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