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友達 1

 「   !!!」  スーツが受話器を床叩きつけ、珍しく罵り言葉を口にしてた。  なかなか下品なヤツで、あの人なら顔色一つ変えずに云うヤツだが今までスーツが口にしたことはない。  いつも冷静なスーツが怒っているのがよくわかる。    「撤収だ」   スーツが言った。  スーツの部下も俺も耳を疑う。  撤収だって?  その公園に捕食者とグール、ダルマと思われる、が来たことは確認されていた。  スーツたちはそこまで追跡に成功していたのだ。  捕食者とグール達はここにいた。  スーツが命令すれば、すぐにもダルマ達グールを射殺し、捕食者「目覚まし」、あの人は「パジャマ」と呼んでる、を捕獲するだけだった。  おそらく主犯は「ダルマ」だとスーツもあの人も読んでいて、ダルマさえ死ねばこの事件は終わったも同然と考えていた。    捕食者パジャマは人を殺さない、異端の捕食者だ。  そう、捕食者なのに弱すぎる。  普通に捕まえるだけでいい。  銃すらいらない、とスーツは考えている。  彼らに付き従うグールの少年「迷子」はダルマに引きずられているだけだ。  指示するダルマがいなくなれば駆逐するのは簡単だと。  俺も万が一に備えて、最後の最後には出動するため準備はしてた。  前回の失態があるので、下手に肉を喰わせないように、オレやあの人はギリギリまで使わないことにはなっているけど。  ここまで追い詰めたのに、中止?  オレも部下の人達も納得できない。  「闇に潜られたか」  あの人だけは冷静だった。  「大量殺人をしない捕食者なら、別に人間の凶悪犯と同じ扱いでいいのではないか、だと?グールは確かに驚異だが、連中が自分達の中で飼っている分には問題ないだろう、だと?」  スーツは唸った。  確かに今回はグールが暴れた割には死者の数は少ない。  それに捕食者パジャマは一人も殺してない。  殺しているのはグール達だ。  この程度の凶悪犯は人間でもいなかったわけではない、というのがスーツの上の人達の意見らしい。  スーツの上の人達はグール達が、よくわかんないけど、そのヤクザだかなんだかの中に潜っていて、一般社会に出てこない限りは、闇の中で闇の者達を喰っている場合は気にしなくていいと思ったらしい。  「・・・新たにグールを作り始めたりしたなら、再び追跡しろ、だと?あの病院で何人が!!」  スーツは言いかけてやめた。  パジャマが最後に立ち寄った老人病院では、寝たきりの老人達は全員がグールに変化していて、スーツ達は患者全員を殺さなければならなかったと聞いた。  グールに変化したならば殺さなければならない。  人を喰わずにはいられないからだ。  仕方ない。  もとにもどす術なとないからだ。  本当は優しいスーツにはそれは酷な話だったと思う。  でも何故かこの報告を聞いた時にあの人が声を出して笑っていたのは意味がわからない。  「【全員】が変化してたねぇ・・・」  あの人は笑いながらスーツを見たのだった。  どこにも笑うポイントはないと思うのだけど。  「飼い主様に逆らうわけがないよな、犬。お前は命令なら何でもする」  今もあの人は嫌な笑い方をしながらスーツに言う  スーツは苦い顔はしたが否定しない。  俺は納得がいかない。  パジャマはともかく、ダルマ達グール達はこれからも人を殺し喰うだろう。  それが一般人じゃないからいい、とか、ありえないし。  それに、一般人じゃないっていうのはその人が悪人であるって意味じゃないことは俺だって今ならわかる。  悪人達が支配している人達もそこに含まれるのだ。  世間から弾かれ、見捨てられ、悪人達に貪られるだけの人達も。  闇に引きずり落とされ悪事に荷担、もしくは、貪られている人達。   いわゆる一般的な善良な市民ではないというだけの理由でスーツの上の人達はその人達を見捨てたのだ。  「ダメだ、そんなの!!誰かを見捨てるってことだろ!!」  俺は叫ぶ。  ダメだ。  見捨てたらダメだ。  「・・・お前こそ、犬達に見捨てられてここにいるのわかってる?この連中そういう奴らだよ?」  あの人が笑って言う。  確かに。    スーツ達はあの人が俺を自分専用の穴にする、と言ったのを認めて、俺を家族の元に帰れなくした。  俺は生死不明の行方不明ってことになっていて、俺の生きてる痕跡はこの世界にはなくなってる。  スーツ達が俺を今までいた世界から消した。  それは俺が望んだことでもあるけど、  それはスーツ達が人間を必要なら見捨てることの証明でもある。  確かに。  「犬は所詮犬。飼い主のケツの穴でも命令されたら舐めるからね。僕はお前のしか舐めない。お前のなら中まで舐めてイカせるけど」  あの人が真顔で言ったので、俺は真っ赤になった。  この人、本当に!!  「あんた何を言って!!」  俺の非難を涼しい顔で受け止め、あの人は俺の頬を撫でた。   その指は優しかった。    「僕は正義の味方だ。犬どもが出来なくても僕は出来る」  あの人が優しく笑った。  「僕のすることは誰にも止められない・・・だろ、犬?」  あの人が言った。    スーツが頷く。    「治外法権だ。誰もあんたのボスじゃない」  スーツの言葉にあの人は笑った。  そう、あの人はあくまでも国に協力しているだけで、誰もこの人を支配などしていない。   大体この人はこの国の人間ですらないのだ。  東洋人のような風貌をしているだけで。  この人だけが捕食者に対する切り札である限り、自分達に牙を向かない限り、この人のすることに誰も口を出せない。  この国のどんな偉い人でも。    それに、この人を殺すことなど不可能なのだから。   この人は何だってできる。  ただし、スーツ達の協力は望めないということだ。  「正義の味方だからな、僕は」  あの人は恩着せがましく言った。  この人はスーツ達のアシスト無しでやるつもりだ。    俺は見捨てられる人がいないことが嬉しくてあの人に飛びついた。    「大好き!!」  俺はあの人を抱きしめる。   抱きしめたら自分のよりは低いとこにあるあの人の頭に自分の頭をグリグリすりつける。  「そんなことは知っている」  あの人は少し照れくさそうに言った。  俺はあの人を抱きしめながら、テーブルの上にあるスーツの部下が撮った写真へ目をやった。  パジャマとダルマの写真だ。  スーツ達は写真をとるまでに接近していたのだ。  命令一つでダルマを撃ち殺せるほどに。  人の良さそうな青年と、伸びっぱなしの髪の美しい顔の青年が映っていた。  どちらも寝たきりの頃の写真とは別人のような姿だった。    あと一人いるグール「迷子」はどんな姿をしているのだろうか。  寝たきりの頃の写真とは違うはず。  俺はふと思った。  

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