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友達 5

 あの人がちょっと出かけて来るって言ったまま帰ってこない。  心配はしてない。  あの人を殺せるのは捕食者だけで、でも今回の捕食者パジャマはあの人と戦うつもりさえないからだ。  しばらくこの街に滞在するのでホテル暮らしなんだけど、あの人が俺の血で部屋をメチャメチャにしてしまったので、綺麗にするまでしばらくあのホテルの部屋にも戻れない。  次の日からは違うホテルに泊まったんだけど、部屋が気に入らないとあの人がワガママを言い出した。  で、また変わったんだけど、それも気に入らないって言い出した。  綺麗なホテルなのに。  最初のホテルのあの部屋じゃなきゃ嫌だって言うから、今急ピッチで壁紙の張り替えとかしてるらしい。  ・・・自分が汚したんだから、少しくらい血が飛んでてもいいと思うんだけど。  ワガママにスーツも部下の人達もあの人を殺したそうな目をしてた。  ごめん、って俺が思ってしまう。      スーツ達はスーツ達で忙しそうに仮のオフィスになっているオフィスビルの一室で何かしてるし。    今の段階でオレに出来ることなんて何にもないのだ。  今回、失敗しかしてないし、俺。  退屈だし、邪魔になるだけなので、ホテルの準備ができるまでこの街の散歩をすることにした。  散歩してくると言ったら、忙しいそうにしていたスーツが声をかけて来た。  「・・・・・・大丈夫か」  それだけだけど、スーツの目にはどこか苦しげな光があった。    心配してくれているのだ。  それがわかる。  俺はあの人にこの前は両腕をきりおとされ、今日はベッドの上で大量の血を流させられ、残酷に犯された。 あの人は子供が玩具に八つ当たりするみたいに俺を酷く扱ったのだ。  ・・・だから、スーツは。  「大丈夫だよ。あの人可愛いんだよ、あれでも」  俺は笑った。  自分でも酷い男と別れられないダメ男好きみたいなことを言ってると思った。  いや、実際そうなのだ。  でも。  でも、本当に可愛いんだって。  思い出しただけで勃起するくらい。  俺の腕の中で泣いたあの人を思い出して、俺の顔が緩む。  「・・・・・・可愛いだけは賛同しないぞ」  スーツが俺の笑顔見て呆れたように言った。  「知らないでいいよ。俺だけのあの人だから」  俺は笑って言った。  スーツは少し笑い、俺の頭をそっと撫でた。  無表情なスーツは笑うと顔の印象が大きく変わる。  暖かい笑顔だった。    そしてスーツはまた仕事に戻っていく。     「スーツ、ありがとう」  俺は部屋を出て行く前に言った。  スーツは守るつもりなのだ。  俺とスーツの約束。  もしも俺があの人に耐えられなくなったら。  スーツは俺を殺してあの人から逃がしてくれるのだ。  でも、スーツ。  大丈夫だよ。  どうせ死んでも逃げられないんだよ。  俺があの人をあきらめられないから。  久しぶりに一人で街を歩く。  あの人はいつもなら俺を一人にしたがらない。  逃げたりしないのに。  だから今日みたいに置いていくことは珍しい。  しかもどこに行くのかも言ってくれなかった。  俺にはほんの少しの秘密を許さないくせに。  何にも言ってくれない。  名前さえ知らない。  「名前はないんだ」としか言わない。    過去も教えてくれない。  何を考えているのかも。  「愛してる」って言葉も。  俺は少し凹んだ。     あの人が何かを隠してる。  っていったら隠してることは沢山ありすぎてどれのことなのなのか、じゃなくて。  あの人は何か不安になってる。    だから、だから、俺にあんなことをした、と、思う、多分。    何かがあったんだ。  嫉妬で腕を切り落としたのは、まあ、しそうなことだよね。  そういう人だから。    残念ながら。  嫉妬深くて心が狭い。    おまけに気が短い  でも、俺を痛めつけながら抱いていたあの人は何かを恐れてもいた。     何かがあった。  でも、ここんとこあの人は寝ていただけだしな。  俺はため息をつく。  どうせ考えても分からないのだ。  「あっ!!」  誰かが驚いたような声がした。  その声のデカさに驚いて、した方を見た。  道路を挟んだ向こう側の通りで誰かが俺を指差していた。  若い男。  ん?  ん?  俺を見て喜んで飛び跳ねているその男、いやソイツに俺は見覚えがあった。  

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