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友達 7
「・・・酷いんだ。他の男を目の前で抱かされるんだ」
彼は声を震わしながら言った。
俺と彼はまた公園のベンチに並んで腰掛けていた。
絶句する。
俺も散々あの人に酷い目にあわされてあきたけど、あの人は他の男に俺を触れさせようとしたことはない。
てか、有り得ない。
凄まじい独占欲なのだ。
困るくらい。
この前はそのせいで両腕切り落とされたし。
まあ、その原因となった彼とこのベンチに座っているのを見られたらヤバい気はする。
だけど、もうなんかほっとけなかった。
「あの人しか触りたくないんだ。でも、嫌なのに気持ち良くなっちゃうんだ。嫌なのに。なのにあの人は言うんだ。ほら、気持ち良くなれただろって誰とやっても同じだと。他の人の中で動いてしまうおれに向かって」
ポロポロと泣きながら彼は言った。
いたたまれないものがある。
相手はあの人ばりにイカレているのはわかる。
いや、あの人よりイカレてる。
複数プレイの強要とか、ないだろ。
普通。
少なくとも、俺でさえされてない。
「でもそれがあの人なりの優しさなんだってわかってるんだ・・・」
彼は泣きながら言う。
優しさ、なのか。
俺は色々疑問に思うが、俺は絶対に彼に何かしら言える立場ではないことを痛切に感じてしまっているのでだまっておく。
「あの人は優しいんだ。優しいんだ。優しいんだ」
さけぶように彼が言う。
「好きなんだ。好きなんだ。好きなんだ。あの人が誰を好きでも」
その言葉は俺の胸に突き刺さる。
ああ、そうだ。
どんなに酷くされたとしても。
諦めることなど出来ない。
あの人は優しい。
彼のその人もきっと。
どんなに間違っていて歪んでいたとしても、それを知ってしまっているから離れられない。
諦めることなど出来ない。
彼は俺だった。
「おれだけのモノになってくれたらいいのに」
その言葉さえ、俺のモノだった。
あの人は誰かを愛し続けている。
それを知っている。
それはあの人から切り離せないものだ。
でも。
でも。
願わずにはいられない。
「せめて、俺の腕の中にいて、俺だけを受け入れてくれたらいいのに」
それは彼ではなく俺の唇から出た言葉だった。
「うん」
彼は頷き、また涙を流した。
俺は何も言わず、彼と二人ならんで座っていた。
俺は彼のことを何も知らないのに、彼を好きになり始めていた。
「そういえば、腕、大丈夫だな。生えたのか?」
彼は思い出したように言った。
思わず笑ってしまった。
「腕が生えるわけかないだろ」
笑いながら言う。
そう生えない。
くっつけたけど。
でもそれは言わない。
彼は「ああ、そうだよな」と頭を掻いた。
恋人のことで頭が一杯でそんなことさえわからなくなるほどに追い詰められていたらしい。
でも、じゃあ斬られた腕はどうしたんだとか、聞いてこないのは何故か違和感があった。
普通、聞く。
手品か何かかと思っても聞く。
だけど、彼はどうでも良さそうに笑っていた。
「俺の恋人は何か隠してる。いつもだ。絶対に本当のことだけは言ってくれない。どうでもいいことはいくらでも言ってくれるのに」
俺も愚痴る。
「でも、恋人だし、愛されてるんだろ」
彼が言った。
「うん」
俺は頷く。
愛されてる。
本当はあんたは俺を愛してる。
根拠はなくてもそう信じてる。
それだけは本当だ。
本当のはずだ。
どういう形であれ。
「俺も好かれてはいる、と思う。優しいから。セックスした後なら二人だけで抱きしめるのを許してくれる。・・・俺が泣くから」
彼が俯く。
また涙が流れる。
年齢をきいたら俺より一つ上だったけど、どうにも12才位の子供に思えてしまう。
でも12才の子供はセックスなんかしないけど。
ゲイであることを隠していた俺にはこんなことを話せる友達なんかいなくて、いつも自分が異性が好きなフリをしなければならなかった。
好きなタイプの女の子を設定して、その話で盛り上がるフリをしたり、嫌いじゃない女の子とつきあったりキスしたり。
したくないのにそうしてた。
だから嬉しいんだけど。
彼は自分がゲイだと思ってないのが気になった。
初対面からあまりにもオープンすぎた。
俺なんてバレることが怖かったから恋なんて出来なかったくらいなのに。
でも彼は同性であるその人を愛するのを表明するのになんの躊躇いもないのが不思議ではあった。
まるで、差別があることを知らないかのような恐れのなさだった。
俺が吹っ切れたのはある意味、人間ではなくなり、全ての人間関係から切り離されたからだってのも笑えるんだけど。
色々周りの目が気にならなくなったわけで。
もう人間じゃないから、もう俺の周りの人達に会わないから。
それとも、彼も、全ての人間関係から切り離されているのだろうか。
俺みたいに。
気になった。
「学校は?」
俺は聞いてみる。
大学生には見えないけど。
「小学校までしか行けなかった。どうしたんだ?なんでそんなこと聞くんだ?」
彼が不思議そうに言った。
「いや、俺も恋人といるために学校やめたから」
俺は言った。
学校どころか人間辞めたんだけど。
「おれは学校に行けなかったんだ。ずっと家にいた。あの人と出会った時には家から出てたけど」
彼は言った。
引きこもりか何かだったんだろうか。
なら、この世慣れない感じはわかる。
でも彼は大きな体をしていた。
俺みたいに鍛えてデカくなった身体ではなく、生まれつき骨格から大きい外国人みたいな身体だが、何もしていないようには見えない見事な身体だった。
グレてた時の友達は少年院でやることがなくて筋トレしてたと言ってたし、そっちだろうか?
家を出たってのは?
「あの人と出会わなかったとしても、おれはもう家には帰れないんだ」
彼は悲しそうに言った。
何かしてしまったみたいに。
うん。
多分、そっち系かな。
「俺も家には帰れないんだ」
俺も言った。
俺達は顔を見合わせて笑った。
友達と笑い合うのは実にひさしぶりで、それが俺にはとても嬉しかった。
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