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友達 9

 彼は立ち上がった。  帰るらしい。  俺は座ったまま彼を見上げる。  俺より少し大きい、そう、スーツと同じ位大きな身体を彼は持て余すように背を丸めていた。  怒って家出はしてみたものの、帰るしかない子供。  そんな感じがした。  帰る先はそれ程良いところではないだろう。  それは分かってた。   彼はとても子供っぽいけど、いかにも育ちが良さそうで、彼に複数でのセックスを強要するような恋人と一緒にいるのは、何か家に帰れないわけがあるのた。  恋人は訳ありなのだ。  きっと。  だけど、俺は彼を引き止めようとは思えなかった。  他に帰りたい場所などないのだ。  その人の元にしか。  それは俺が一番知っていた。  「あんまりさ、おれ達以外には良い人じゃないんだ、あの人。だから、おれが街で見かけて一人じゃなかったら絶対声をかけないで、いや近寄らないで出来るだけ離れて。・・・でも、おれ、この公園には毎日散歩に来てるから・・・」   彼ははにかむように笑った。     友達になりたい、そういう意味だとわかった。    「俺も、俺の恋人はああいう人で、俺だけじゃなくお前にも斬りつけたりするから、絶対に一人じゃなければ声をかけないで。・・・またここで会えるよね」  俺も言った。  友達になろう、そういう意味だった。    俺達は微笑み合う。  俺は写真に写っていたパジャマとダルマの顔を思い浮かべた。  捕食者とグールをなんとかするまて俺はこの街にいる。  だからまた彼には会えるだろう。    名前は聞かなかった。  彼もきかなかった。  俺も彼も。  そういう名前には意味がなかった。  お互い、過去を切り捨てているから。  俺達には恋人が呼んでくれることだけが名前の大切な使い方だった。  「またね」  彼は言った。  小さく手をふる。  俺も手を振った  とぼとぼと歩いていく彼にむかって誰かが呼びかけるのがきこえた、  「おい!!さがしたぞ」 その声はそう言った。  

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