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恋人 10
オレはあの人と手を繋いで歩いていた。
オレは汗で濡れてしまう手をあの人が気持ち悪いと思わないか、それだけが気になった。
寒さも暑さもわからないくせにこの身体は、汗を流すのだ。
緊張して。
男同士で手を繋いで歩くオレ達を、奇妙な眼差しで見る連中もいたがそんなのは気にもならなかった。
まだ、大っぴらに「店」に入れられるまでのオレを世間の奴らはこんな目で見てた。
「おかしないやらしい子」
散々母親の男達に弄ばれてきたオレから出てくる、性的な雰囲気をそう言ってオレを忌み嫌った。
自分の子供達を近寄らせないようにする近所の子供達の母親達。
オレを弄ぶ男達も、オレを「いやらしい子供」と決めつけて、こういう目に欲望を加えてみていた。
誰もその原因にまで目を向けることを拒否していた。
母親達はオレを厭み、男達はいやらしいモノとしてオレをそう扱った。
でもこの人だけはそんな目で見ない。
この人はオレと手をつなぎたくて繋いでいる。
オレより少し背の高いあの人を見上げた。
唇を見つめる。
おまじないのキスをして欲しかった。
こんな街のど真ん中で。
でも、言えなかった。
人前でセックスだってしてきたこのオレが。
ステージの上で人に見られながら、手足のない身体をさらして抱かれてきたオレが。
「ん?」
あの人はオレの視線に気付いたらしい。
柔らかに笑う。
オレはキスを強請るような視線を送ってしまった自分に恥ずかしくなり真っ赤になる。
さっきまでゲスのものを咥えてたところにキスなんてさせられない。
オレは顔を背けようとした。
その前にあの人は素早くオレにキスした。
小さな音を立てて。
人々の前で堂々と。
そして笑ってくれた。
「君は綺麗だね、やっぱり」
オレを見てそんなことを言う。
オレは信じた。
この人の言うことだから信じた。
オレは繋いでない手で自分の唇を抑えた。
唇がふれた感触。
胸が痛む。
痛む。
嬉しくて。
頬がゆるんだ。
他愛ないキスの一つで。
「・・・グズはこの公園によく行くんだ」
オレは少し先にある公園を指差しながら、声が弾んでしまうのを隠しきれなかった。
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