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恋人 11
「グズ、帰るぞ!!」
その青年は怒鳴った。
彼はピクリと背中を震わせた。
俺は彼と約束したように知らない人のように振る舞うため、そちらへと目をやるのをやめた。
ゆっくりと立ち上がり、公園の反対側の出口へと向かう。
「・・・シたりないんだよ。お前のがないと」
青年が下品な声で笑った。
彼が低い声で何か言った。
青年がバカにしたように笑う。
「お前はバイブだろ。腰振ってりゃいいんだ」
あけすけな言い方に、俺は胸が痛んだ。
酷い。
これが彼のあの人?
俺のあの人も言うこと大概だけど、言い方や眼差しや指とかは優しかったりするのに。
彼のあの人は・・・酷さしか感じない。
思わず振り返った。
彼より一回りは小さいその青年は、人形のように整っていて、蛇のように酷薄な目をした人だった。
確かに俺のあの人ほど綺麗じゃないけど、その辺じゃ見かけないような綺麗な人ではある。
彼が俺の視線に気付いて小さく首を振った。
だから俺はその場を離れた。
本当に優しくされてるの?
本当に?
自分で優しくされてると思い込んでいるだけじゃないの?
そう言いたくなる気持ちを抑えこむ。
だって。
だって。
それは俺にスーツがその目で問いかけることと同じだからだ。
信じるしかない。
俺達は。
他の誰でもだめなんだから。
俺は公園を後にした。
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