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夢から始まる 2
愛している。
その言葉は遠い記憶の彼方にある。
同じ顔の彼が微笑む。
「忘れて。僕を忘れて」
彼が言う。
「愛してる」
彼が言う。
愛してるよ。
だから忘れてあげる。
だから思い出さないよ。
目覚めたら忘れてしまうこんな夢の中以外では、ほとんど思い出すこともない。
君が僕にくれた名前も、僕が君にあげた名前も。
名前を呼び合う愛しい記憶も。
愛してるの言葉も全て君に捧げる。
生きることさえ認められなかった君のために。
僕は世界を呪う。
僕は人間を呪う。
僕は人間でないことを喜ぶ。
僕は人間で楽しむ。
人間は僕達を必要とした。
罪悪感なしで楽しめる性的玩具として。
不要になったら捨てる道具として。
人間相手なら感じる罪悪感は、僕達を相手にする場合は必要はない。
「これは本当じゃない。これは本当の人間じゃないからだ」
それは全ての罪悪感を取り除く魔法の言葉。
本物の人間を痛めつけるのではないのなら、現実でないのなら、何をしてもいい。
人間達はそう思っている。
ゲームでなら簡単に人を殺せるように。
だから僕もしてもいい。
だって僕は人間ではないのた。
だから人間に何をしてもいい。
そうしたのならば、そうされることもある。
そういうことだ。
僕は夢の中で僕の半身を抱きしめる。
怖がらない程度に身体を撫でて、夢の中でさえ、その身体に押し入りたいのを堪える。
生きていて暖かい君の身体に僕が入ることは、夢の中でさえないのだ。
君を愛している。
この言葉は君だけに。
彼を抱きしめているのに、ガキのことが頭をよぎる。
ガキは可愛い。
本当に可愛い。
愛している。
そう言ったならガキがどれほど喜ぶかもわかっている。
でも僕はガキが欲しがるこの言葉を、ガキにはもう与えてやれないのだ。
彼を抱きしめている時でさえ、考えずにはいられない程に、ガキのことを考えていても。
彼を優しく抱きしめる。
柔らかな吐息に胸がしめつけられ、苦しい程の欲望に身体が焼かれても、僕は腕の中の彼を抱かない。
愛してるから。
彼がそれを望まないから。
君のためなら何にだって耐える。
僕は君に世界を与えたかった。
でも何一つ与えてやれなかった。
そんな君にしてやれるのは君の願いを叶えることと、君以外は「愛さない」こと。
だって君はもう僕以外愛さない。
絶対に。
愛せないんだもの。
僕だけしか愛せなかった君を救えなかった僕が、君以外を愛するわけにはいかない。
だって愛してる。
愛してる。
時間さえ関係ない。
今も、胸が痛み、夢に君がでてくるこんな夜には君を抱きしめずにはいられない。
激しい欲望を感じながら、耐える。
でもたまらなく愛しい。
この腕の中の天国。
いや、地獄なのか?
そして、こんな時でさえ、ガキのことを考えてしまう。
でも、彼を愛してる。
欲望を彼の身体にこすりつける。
夢の中の彼の身体は記憶の中とは違い、僕と同じ年頃だけどそれは不思議には思わない。
僕らは同じモノだからだ。
同じ顔、同じ身体。
同じ製品。
彼が小さく呻くけれど、それ以上はしない。
ただしっかりと抱きしめる。
泣きながら抱きしめる。
ちゃんと忘れてる。
起きてる時にはほとんど思い出しもしないよ。
だから、だから、覚えていられない夢の中なら、せめて君を抱きしめさせて、触れさせて。
それも全部忘れるから。
僕は彼のキスを求めた。
どこか胸が痛むのは罪悪感。
ガキへの。
でも、求めずにはいられない。
彼はキスなら許してくれる。
自分と同じ形の唇を開き、自分と同じ味の舌を貪る。
キスに夢中になりながら、違う形の唇と、違う味の舌を思う。
ガキの唇、舌。
ガキの味。
胸が痛む。
でも止められない。
だって。
愛している。
愛してきた。
胸が痛い。
杭を打ち込まれたみたいに。
でも、でも。
「口でしてあげる」
僕と同じ声が囁くことばに恍惚となる。
「愛してる」
彼の言葉だけでイきそうになる。
許して欲しいと願うのはガキに?
彼に?
もうわからなくなる。
暖かい口の中に包み込まれ、
僕は彼の頭を掴んで、緩く腰を動かし始めた。
「飲んで?」
僕は強請る。
飲んでくれるのは分かっている。
中に入れさせてはくれない彼が代わりにしてくれることだから。
喉の奥までねじ込むような酷いことなんてしない。
君が嫌なことなんて。
絶対に。
ガキの気持ち良い喉の奥を思う。
ガキを忘れられない。
この瞬間でさえ忘れられない。
ガキを抱いている時は彼のことなんて忘れているのに。
「愛してる」
放ちながら、気持ちよさと愛しさにふるえながら、でも胸を痛めながら僕は言う。
「愛してる」
ああ、胸が痛い。
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