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夢から始まる 3
夢は終わる。
夢の中で彼は僕の腕の中で溶けていく。
ああ。
行かないで。
僕は泣き叫ぶ。
でも分かっている。
この夢は何度も繰り返し見ている。
起きている時は忘れてしまう夢。
僕は世界に取り残される。
君のいない、君を殺した世界に取り残される。
行かないで。
僕は泣く。
残るのは呪いだ。
この世界への。
君を殺した世界への呪詛だけだ。
愛してる。
愛してる。
行かないで。
行かないで。
許さない。
許さない。
殺してやる。
刻んでやる。
苦しみながら死ぬがいい。
誰も僕らを救おうともしないなら、僕もお前達を許しはしない。
呪いと殺意を欲望に変えて、僕は人間で楽しむ。
なのにガキが望むから。
でもガキはそんな僕を嫌うから。
ガキが僕を嫌うから。
嫌われたくないから。
嫌わないで。
愛してやれない。
でも嫌わないで。
嫌わないで。
僕は、お前に嫌われたくない。
僕を受け入れて。
受け入れて。
僕を。
溶けてしまった彼がいなくなった空間を抱きしめながら僕はガキの名前を叫ぶ。
僕が人を殺す時に見せるガキの目に傷つくのは僕なのに。
ガキが一番僕を傷つけている。
ガキは一度だって僕の全てを受け入れてくれたりなんかしない。
僕は傷つく。
お前を愛してやれない。
お前から全てを奪っている。
だけど、だけど。
お前だって僕の全部を受け入れてくれてない。
ガキの名前を叫ぶ。
怒りがある。
理不尽な。
切なさがある、
痛切な。
悲しみがある。
僕は誰にも存在を許されてはいない。
誰にも。
ガキにさえ。
ガキの名前を叫ぶ。
お前は許してくれてもいいはずだ。
僕が殺してころしまわって、刻んで、楽しんでも、それを笑って許してくれてもいいはずだ。
それが僕なのに。
でも、許さないんだろ?
自分の理不尽さは分かっている。
でもこれは夢だから引き下がらない。
彼を愛しても許して。
誰を殺しても許して。
僕を愛して。
僕はお前を愛さないけれど。
苦しい。
そんなことを求めてしまうのが苦しい。
ガキが悲しいのが苦しい。
ガキに与えられるのが苦しみだけなのが苦しい。
お前が悲しいのが苦しいのが嫌だ。
僕は胸を押さえ叫び続けた。
「だからボクを呼んだんだね」
その声がきこえるまで。
僕は声の方を振り向く。
見る前から分かってはいた。
ここは僕の夢なのに、現れたか。
パジャマだ。
「何度も会ってるよ。思い出してないだけ」
パジャマは僕の心を読み言った。
パジャマはベッドに腰掛けて僕を見ていた。
僕と彼が抱き合って寝ていた工場の素っ気ない木のベッドだ。
寄宿舎みたいな部屋。
僕達はここに閉じ込められ育成されていた。
高いフェンスに囲まれた運動場以外の外を知ることなく。
「君も閉じ込められていたんだよね」
パジャマはのんびり言う。
同じ学校に行ってたみたいな口振りで。
「お前が何に閉じ込められていたと言うんだ」
僕は鼻で笑う。
コイツは僕のように工場で育成されていたわけではない。
コイツを愛する母親に守られていたのだ。
僕の方は親とよべる育成係に殺されかけた。
もっとも僕が育成係を犯して殺して外へ出たけど。
「ボクはボクの肉体に閉じ込められてた。ここよりも狭い」
彼は微笑む。
それは確かだ。
「君の叫び声が聞こえた。眠る夢の中で。ボクは君を探した。夢の中で。そして、君をみつけた。君か最初にボクを呼んだんだ。だからボクは君を現実でも探すため、動けるようになることを望んだ。だって君は目覚めたらわすれてしまうでしょ」
パジャマは微笑む。
「お前など呼んでいない」
僕は冷たく言い放つ。
確かに僕は苦しみ続けてきた。
彼を失ったことに。
目覚めると忘れてはいても。
蓋をした想いが夢の中で暴れていたのは本当だ。
そして、おそらくパジャマの能力の本質は精神感応タイプなのだ。
精神操作型ではなく、感応するタイプ。
テレパシーみたいなものか。
それにより、肉体から遠く離れた僕を見つけ出したのも間違いないだろう。
コイツは人の夢を読むのだ。
夢から望みを引きずり出し、それを現実にする。
自由に身体を動かしたいという望みを。
グールになる、そのことさえ、ソイツらの望みなのかもしれない。
グール達は誰ひとりグールになったことを後悔しないはずだ。
「ボクは君に会いたくて、動けるようになったんだ」
パジャマは優しいとしか言えない視線を僕にむける。
「君の憎しみ、君の愛、君の絶望、君の欲望。後悔、痛み、独占欲、強欲さ。君から溢れ出てくるものは僕の世界にはなかった。特に、君があの少年に出会ってから、君は夢の中でさらに苦しみ矛盾し、のたうちまわってた・・・痛々しくて激しくて、君はとても綺麗だった」
パジャマは僕を見つめる。
僕は真っ赤になる。
怒りでだ
コイツは僕の。僕の。僕の。
決して誰にもみせたことのない、葛藤を見たのだ。
羞恥と屈辱に震える。
「知ってるよ。あの子に全部受け入れてもらって、抱きしめて欲しいんでしょ。本当は挿れられるのが大好きなのも知ってる。君の愛した彼が本当は君に挿れられたかったのと同じように、君もそれを拒否している。それは自分が【人形】であることを認めることになるから。君は人間ではいたくない。でも【人形】であることは何がなんでも拒否する。それが大好きでたまらなくても認めるわけにはいかない」
パジャマは知ったような口をきく。
僕にこんな口を聞いたやつはいなかった。
僕はパジャマの首をねじ切るためにパジャマに襲いかかる。
しかし、パジャマの身体は実体がないかのようにこの手をすりぬける。
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