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夢から始まる 6

 「今のところ、噂だけです」  私は部下からの報告を聞く。  表向きはグール達の捕獲は打ち切られているが、私はこっそりと情報を追っている。  グール達がこの街の闇で蠢いているのは間違いない。  頭部以外は全て食べてしまうグール達の存在はすばらしい死体処理システムでもあって、死体はあがってこないため、殺人事件にすらならない。  頭部だけの始末は遺体丸ごとの始末に比べたなら、断然容易いからだ。  溶かしたり、刻んだり、コンクリートに詰め込んだりと意外と死体の処理は大変なのだ。   頭部だけなら運ぶのも簡単だ。  奇妙な男たちに追いかけられていた男達がいた、  部屋に見せつけられるようにおかれた生首が会ったらしい  そんな噂だけはあがってくる。  死体は見つからず、証拠にはならない。  そして誰も証言しない。  闇に生きる者は闇の掟に従うからだ。  闇のシステムに順応して、グール達はこちらの気を引かないように動いているのだ。  一般人には手を出さず、闇から出ることなく。  今、は。  まだ。  だが、「ダルマ」と呼ばれた主犯のグールは人間を憎んでいる。  いや、グール達全てがだ。  絶対にこのまま大人しく闇に潜ったままのはすがない。  グール達がこちら側に手を出しさえすれば、こちらも上が何を云おうと動けるのだが。  動き出した時にはもう手遅れかもしれないのだ。  私は忘れてはいない。  私はグールになってしまうかもしれないという理由だけで、病院の老人達全員を殺したのだ。    二度はしたくない。  また手を汚すことはあるだろう。  だが、同じことを繰り返すことはするべきではない。    「街の動向をこのままさぐれ」  私は部下に命じる。  部下は闇社会に潜っている。  ちょっとした便利屋として。  あまりにも短期間の潜入には、いくつかツテが必要だったが、それは意外にもあの男の協力で得られた。  元々、闇で生きていた男だ。  それなりに顔が利く。  それはこの街でも、だ。  もっともっと深い闇に生きていた男なのだ。   もともと「イカレた始末屋」として有名だった。  完璧な仕事ぶりと、そのイカレっぷりで。  あの男は闇の中でも自分を偽り、「情報屋」としての仮面を被っていたらしい。  「始末屋」としてのあの男の顔を知っているものは闇の中でもほとんどいない。  そして、また「正義の味方」と自分を称するようになっている今も、「情報屋」として動いているらしい。  闇の中での顔がないと得られない情報がある、とその理由を言っていた。  男の協力で街の闇に部下を潜り込ませているが、男自身も動いているようだ。  動向は全てモニターしてあるし、男の会話もすべて聴いてはいるが、男が何を探っているのかはさっぱりわからないし、男にはこちらに報告する義務はないのだ。  むしろ、今回は男が協力してくれている形なのだ。  「何かある」までグールも捕食者も追ってはいけないことになっているのだからこちらは。  ただ、わかっていることは男が捕食者「目覚まし」、男の呼び方では「パジャマ」、を捕まえることに執着していることだ。  面白がっていた少し前とは違い、男は「パジャマ」にひどく怒っている。  何になのか全くわからない。  男はまだ「パジャマ」と接触すらしていないのだ。  だが、主犯の「ダルマ」ではなく「パジャマ」に男は凄まじく執着している。   皮を剥ぎ肉を削ぐことをのぞんでいる。  パジャマの苦痛だけを欲している。  異様な程の執着で。  少年にも聞いてみたが、少年も男がそうしたがる理由はわからないと言う。  見ている夢に何か関係あるのかも、と少年は考えているようだ。  ・・・男はもう少年に乱暴はしていないようだ。  しばらく自宅代わりになっているホテルの部屋にはもう盗聴機はない。  自宅に盗聴機をつけないと、が男との契約だからだ。  もうベッドが大量の血を吸うこともないようだ。  しかし、思い出せば怒りがこみ上げる。  あの男は少年をいたぶったのだ。  何があったか知らないが感情のままに。  あの男は言うだろう、お前が言うな、と。  確かに。  嫌がる妻を何度も抱いてしまう私が言うことではないだろう。    だが、私は妻を傷つけるためにしたことなどない。  傷つけたくないのだ。  傷つけているその最中でさえそう思っている。    だがあの男は子供かオモチャに八つ当たりするように、少年を傷つけたのだ。  それがあの男の本性だ。    少年のことを想う。  私が男に差し出した少年のことを想う。  優しい優しい、少年。  恨むことさえ知らない少年。  私をそれでも慕ってくれている少年。  血に重く濡れたベッド。  私は奥歯をかみしめてしまう。  許せないのだ。  あの男が。   自分が。    罪のない人々を殺してしまったことよりも、あの男に少年を差し出してしまったことの方が、この胸は痛む。  痛み続けているのだ。  私に何も言う資格はないとしても。              

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