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夢から始まる 9
「どうしたんだ?」
彼は俺を見るなり、顔を両手で覆ってしゃくりあげたから俺は慌ててそう言った。
待ち合わせをしてるわけではない。
でもなんとなく、夕暮れ頃にこの公園に行けば彼に出会えるのがわかった。
いつも、他愛ない話をして少しして別れる。
もしくは、今日みたいに彼が泣くのをなぐさめる。
今、彼は女の人を抱かされているらしい。
相手の女の人も合意らしいが、彼はそれに酷く傷付いていた。
彼にとってセックスとは彼の大事な人とすることなのだ。
他人とすることを強制されることにではなく、そこで快楽をえてしまうことに彼は傷ついていた。
「理由があるから、って言うんだ。大事なことだからって」
彼は肩をふるわせる。
俺は自分があの人に他人とのセックスを強要されたらと考えてみたが想像できなかった。
こうやって、彼と話をしているのがみつかっただけで酷くされるのはわかるが、人に俺を与えるあの人はどうやっても想像できない。
「誰を愛していてもいいから、おれがあの人を愛してるのを許して欲しい。わかってるんだ。あの人はおれのためにあの人を諦めさせようとしてるんだって」
彼は泣く。
どちらが優しいのか。
誰かを愛している男、絶対に「愛してる」と言ってはくれない男からそれでも絶対に逃がしてはもらえないことと、「望みがないから愛するな」と拒絶されることとでは。
そうだな、優しいのは彼のその人の方だ。
あの人は決して俺を逃がさない。
他の誰かを愛していても俺を離さない。
それを知っている。
でも、俺はそれに歓喜している。
あの人がオレを手離さないことに。
酷く扱われている時でさえ、それに狂喜している。
あの人の執着を愛だと信じているから。
「あの人じゃなきゃダメなんだ」
彼は泣く。
それは俺の言葉で。
「そうだね」
俺は彼の肩を抱いた。
ただセックスが気持ち良いものを追うだけなら俺も彼も苦しまないのに。
快楽だけが全てだったらなんて楽だろう。
でも違う。
俺達は欲望に取り付かれているようで、でも欲望以外のものを求めてる。
それは多分、あの人だってそうなんだ。
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