116 / 156

破滅の音 2

 「起きて」  あの人が優しく囁く。  青年は目を見開く。   先ほどまで白目をむき、痙攣して涎や小便を垂れ流していたのだ。    貧困ビジネスの片隅で、動けなくなり死んでいく老人達をオレは見つけた。  そう、生活保護費をむしり取るために貧困にいる人たちを集めて飼うビジネスだ。  受け取る生活保護費をまきあげる。  ホームレス救済という名目の非営利団体の顔をして。  働けるものは、建築現場で働かせて、日当を奪う。  それは喰った奴らの一人がそこに関わっていたのでいくつかの施設がわかった。  そのしくみも。  そこにいる彼らはちょうど良かった。   仲間にするのに。  病院や施設には監視が光っているだろうし、目覚め誰かをくったなら発覚してしまう。    警察が動き、猟犬達か動き出す。  前みたいに新しい仲間が殺されるだけだ。  でもこういった施設なら、隠蔽されるだろう。  寝たきりのモノが動けるようになり、誰かを喰い殺しても。  なんとかして。    事実、この施設で病死とは言えない死に方をした人間が何人も消えている。   閉じ込められた人々は、僅かなモノを巡って施設の中で殺人すら犯すこともあるのだ。  そして管理する側が言うことを聞かない奴を殺すことも。  ここは本当の救済施設などではないからだ。  死んだ事実は消える。  文字通り跡形もなく。  建設中の土台の中か、海の底なのか。    今度は残った死体が頭だけならもっと簡単に消せるだろう。    この白目を向いた青年も、おそらく仲間内か、ここを管理人している人間に酷く殴られたのだ。  このままでは長くは持たなかっただろう。  ろくに世話すらされていないのはすぐにわかった。     生活保護費もとれないなら生きておく意味はないのだ。  頭にケガを負った青年は、申し訳程度に頭に包帯を巻かれ、放置されていた。  オレ達が来なければ、今日死んでいただろう。  「魔法をかけてあげる」  あの人が囁いた。  オレはそれを聞きながら微笑む。    仲間は増えていく。    さあ、人間の殻を脱ぎ捨てて、世界を壊しに行こう。   薬漬にされ、廃人になり死にかけていた少女。  動けなくなったために親戚に家を乗っ取られ、財産を奪われた老婆。  彼女達がここで保護されているのは、保護ではなく口を塞ぐため。     弱いモノからむしゃぶりとる連中に食い尽くされ、死にかけていたモノ達。  あの人はそのモノ達に魔法をかけた。  救うために。   絶望しながら死んでいくはずだった連中に。   彼らは目覚て、誰かを喰い殺し、オレ達の元に来る。  警察は動かない。  喰った後の後始末はここの連中がしてくれるはずだ。  警察が嫌なのは連中の方だからな。  一晩で4人。  多くはないが、これ位がいい。  オレとグズとゲスと彼女を合わせると8人だ。   まずは8人で始める。    それに、だ。  そろそろ何かあるかもしれない。  それがうまくいっていたら・・・。    オレは優しく囁くあの人を見て笑った。  あの人はなんて優しく話すんだろう。  この声をずっと聞いていたい。            

ともだちにシェアしよう!