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破滅の音10

 「派手に行こうぜ!!」  オレは笑った。  グズはオレの隣りで小さく肩をすくめた。  グズは相変わらず乗り気じゃない。  グズは人間を喰うのも殺すのも躊躇わないが、こういうのは好きじゃないからだ。   でも、止めはしない。  グズだって人間を憎んではいる。  グズは身体が動かなかったころ、施設で職員から虐待を受けていた。  オレとは違って性的なものではなかったが、嘲笑われ、見つからぬように振るわれた暴力を忘れちゃいない。  忘れるものか。  オレ達はみんなそう。    オレは昨日、消しても消してもネットから消えることのない動画を見ていた。  削除される度、誰かが上げる動画だ。  カルト化した若者達が自分達だけの国を作ろうとした事件。  その教祖と言われる青年がネットで流した動画だ。  金髪に染めた髪の青年は人間を呪っていた。  自分達は呪いなのだと言っていた。  オレは彼の言葉に同意した。  オレ達は呪いだ。  お前達人間が作り上げた呪いだ。    オレはお前達が嫌いだ。  いや、オレ達は、か。  「あんな惨めな身体になるくらいなら、死んだ方がいいよね」  そう思ったか?  じゃあお前も死ね。  人間である以上、お前らはオレ達の餌なのだから。  「役に立たないんだから生きてる価値がない」  そうか。  お前を生かしておいてもオレ達にはなんの価値もない。  だから、お前も死ね。  「金を払って商売なんだから・・・こうされても仕方ない」  幼いガキだったオレを抱くような金で罪悪感を消すような連中も死ね。  楽しんで殺した後になら、お前にも金を払ってやってもいい。  「私は知らない、私は何もしてない」    そうか。  本当に知らなかったか?  本当にそんなことがあることを聞いたこともなかったか?  「死んだらいいよね」  「そういう奴らだよね」  「約に立たないよね」  そんな言葉を聞いたこともなかったか?  殴られたように見える女、ひんぱんに痣をつくる子供、明らかにおかしい両親とおびえた子供。  何かかおかしいモノを目にしたことが一度でもなかったか?  何一つそんなものは知らないか?  ならやはりお前は死ね。  お前は見ないようにすることで、そいつらを助けているからだ。    助けられることなく苦しんだオレ達と同じように苦しむがいい。  死ね。    死ぬがいい。  オレと同じ目にあえとなど言わない。  反省してくれとも思わない。  ただ、死ね。    オレの悪意は最高潮に達していた。  オレはあの教祖みたいに、警告などながしてやらない。  オレ達の国など作らない。    オレ達はいつだってここにいた。  忘れ去られ、虐げられながらこの世界にいた。  だからオレ達は今も変わらずここにいる。  ただ、もう、助けなど願わない。  助けを願いここにいるようになるのはお前達だ。  オレは時計を確認する。  川にかかる大き鉄橋の上は沢山の車が行き交っていた。  オレ達は橋の街側の端にいた。  この街は大きなふたつの川の真ん中にあたる場所にある中州なのだ。  2つの橋がなければ陸からは断然されている。  決して建築的には良い土地ではない。  だが、断然されているからこそ、逃亡防止のためなのか、昔からここは女達を集めて身体を売らせていた場所だったのだという。  オレのような境遇の女達がここに閉じ込められていたのだ。  呪いのためには良い場所じゃないか。  時間だ。  オレは楽しい気分で手の中のボタンを押した。    心が躍るような爆発音も、   舞い上がる車も、  千切れて飛んでいくアスファルトも。  埃も、  悲鳴も。  何もかもが楽しかった。  破滅の音だ。  殺戮の始まりの音だ。  オレは大きな声で笑った。  オレを苦しめた世界が弾け飛ぶのは爽快でしかなかつた。  オレの呪いが形になった瞬間だった。  もうひとつの橋も今頃仲間達が爆破している。  さあ、ここは陸の孤島になった。        

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