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殺戮の歌8
僕は冷たくなり、動かなくなった彼の身体を愛していた。
冷たい唇に唇を重ね、応えてはくれないキスを繰り返す。
あれだけ触れられることを怖れていた身体を好きなだけ撫で回す。
ちょっと触れただけでも泣いた乳首を好きなだけ弄る。
舐めて、咬みまた優しく吸った。
彼は当然のごとく、何の反応もしなかった。
そんなことは気にしない。
彼はもう嫌がらない。
それだけで、こうする理由には十分だった。
愛しい愛しい身体。
胸がいたむ程愛しくて。
たまらなく甘い。
僕は夢中で彼の全身にキスをくりかえす。
舐めて、吸った。
甘い。
甘い。
これは夢だ。
そんなことはわかっていた。
だって彼の身体は僕と同じ大人だ。
彼がどんな姿の大人になっていたかなんて、性器の形までわかってる。
僕と彼は同じ遺伝子で出来ているのだから。
僕は毎日鏡を見る度、そこに少年のままで死んだ彼の大人になった顔をみる。
この夢の中にあるのは、あの日夢中になって抱いた少年の身体ではない。
でも、内臓を切り取られた後縫い合わせた無残なキズだけはあの日のように残っていた。
その傷口に口づける。
「愛してる」
何度もそうささやき、その度に苦い想いが走る。
僕は夢中だ。
彼の身体を味わうのに夢中だ。
その甘さに夢中だ。
だけどその身体に舌を這わす度、唇を落とす度、愛してると言う度、苦さをも感じるのだ。
ガキ。
ガキのことが頭を離れない。
でも僕は彼を手放せない。
彼の身体を愛することも止められない。
普段は想い出さないからこそ、こんな夢の中で例え死体の夢だとしても手を伸ばしてしまう。
ガキの暖かい身体。
生きた肌。
僕を見る目の熱さ。
それらは僕をつなぎ止めてくれているのに、僕はこの冷たさ魂を失った身体を愛することを止められないのだ。
例え身体だけだとしても。
これは彼なのだ。
愛さずにはいられない。
だらりとしたままの身体に押し入り、夢中で腰をふる。
気持ちいい。
僕は死体が好きだ。
魂がいなくなったからって、身体が無意味であるとは思えない。
彼の魂がいた場所だ。
彼の身体だ。
髪の毛一本すら愛おしい。
例え腐り果てても、僕には美しく、愛おしい。
僕は腐肉をすすり愛するだろう。
いなくなった魂の痕をさがすように、犯し続ける。
愛しさこそが最大の快楽なのだ。
僕は知っている。
魂がいたはずの場所は僕には聖堂にも等しい。
人間なんてどうでもいいが、それでも僕は死体とする時は優しい気持ちでセックスしている。
生きてる人間には向けられないようなやさしいで。
死体なら優しい気持ちになれるのだ。
それは聖堂なのだ。
僕は腰をぶつけ、彼を揺さぶる。
彼はされるがままだ。
彼の意志がないからこそ入れて、味わえる快楽。
君は許してくれなかった。
だから僕は嬉しい。
君に入れて。
君を失った悲しさと、君に入れた喜びは、君の死体を聖なるものにする。
夢でも良かったのに。
夢だけでも嬉しかったのに。
君を抱かずにはいられないのに、君を愛しているのに、胸が痛い。
ガキの顔がちらつき、それでも僕は彼を犯し続ける。
「複雑だね」
声がした。
僕は何度目かの吐精を彼の中で行い、身体を振るわせた。
イラつく。
人の夢の中に、しかも彼の夢を見ているところに現れるな。
パジャマ。
「出ていけ。もうすぐ現実世界でお前の頭を吹き飛ばしてやるから待ってろ」
僕はパジャマに言い捨てた。
僕はパジャマを追い出せない。
夢の中ではパジャマの方が僕より強い。
それがパジャマの能力だからだ。
僕達捕食者は実質的にはふたつの能力を持つ。
僕の何でも消し去る銃となんでも切り裂く刀みたいに。
金髪の相方なら「人間を植物化する」「植物を自由に操る」能力。
狂犬の「何でも消し去る拳」と「怪力」そして何より奴は自分の「視界に入る全てのモノを把握する」という捕食者になる前からの能力もあった。
詐欺師なら「人に望みのモノを見せる能力」そして「人を操る能力」かと思われたんだがむしろ、「ネットや人の脳内を歩き回る能力」の方が捕食者としての能力で人間の心を操るのはもともと持っていた奴の才能らしかった。
「捕食者」だけではなく「能力者」もこの世界に現れてきている、というのは僕の仮説だ。
狂犬や詐欺師は能力者が捕食者になった例。
僕や相方はただ捕食者になっただけだ。
異様な身体能力を持つガキや、人間暗号解析機の犬の嫁みたいに捕食者じゃなくても「能力」を持つモノは生まれてきている。
そして能力を兼ね備えた捕食者も。
それがどういう意味なのか、僕も色々考えてはいる。
いくつかの仮説も。
とにかく、パジャマはそういう捕食者だ。
動けなくなった人間をグールに変えるという能力とは別にコイツは人の夢の中を歩き回るのだ。
「ひどいなぁ」
パジャマはのんびり言うが、僕は無視する。
追い出せないなら無視するしかない。
目覚めればいなくなる分、ゴキブリよりはマシだ。
殺せ無いのは、ゴキブリよりたちが悪いが。
そんなことよりも、また彼の身体に舌を這わせる。
愛しさだけで死にそうだ。
触れさせて。
もう現実では触れられないのだから。
生きてる君じゃなくても、触れられるなら何でもいい。
夢だって。
冷たい身体の弾力は、どこか遠くて、それに愛しさがかき立てられる。
君がかけらでも残っていないか、僕は肌を吸いながら探す。
髪をなでる。
綺麗な顔に口付ける。
君は綺麗。
だから僕も綺麗。
君と同じ顔なのが嬉しい。
またたまらなくなって、出したものが零れ出る穴に入る。
熱さのないそこを味わう。
いくらこすりたてても反応のない身体は、だからこそ彼がいた場所で、だからこそ愛しかった。
たまらなくなってまた夢中で腰をたたきつけた。
「そんなに気持ちいいのに、何故罪悪感を持つの?」
パジャマがいつのまにか僕の隣でしゃがみこんで、僕と彼を見下ろしながら言う。
ムカついた。
ただの雑音だと思えばいいのに腹が立つ。
彼の中でゆったりと腰を使いながらパジャマを睨みつけた。
うるさい。
だが無視して、彼を味わう。
ああ、愛しい。
気持ちいい。
大好き。
「不思議。彼が生きてる時には、君は夢でさえ彼を抱かなかったのに」
パジャマの言葉に僕はさすがに止まってしまった。
コイツはいつから僕を・・・知っていた?
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