139 / 156
V.S 3
ヘリコプターは街の上空に来ていた。
本来昼間でもそこそこ人がいるはずの繁華街は誰一人いなかった。
逃げられなかった連中はパチンコ屋に監禁され、逃げられた連中は家やどこかに閉じこもり震えているのだ。
おびえて震えている人間はどんなにおかしいだろうか。
僕は想像して笑った。
僕はそろそろ行くことに決めた。
水面下で動く必要はもうない。
国は正式に僕に「グール」とその作り手である「捕食者」の殺害を依頼してきたのだ。
僕は「正義の味方」だからね。
お仕事はちゃんとやり遂げる。
「奴らの居場所はどこまで確認できている?」
犬に聞く。
「映画館に閉じ込められている人間からの情報では奴らの姿はないらしい。しかし、爆弾が仕掛けられているため動けないとか。他の監禁場所からもそういう情報だ」
犬が答える。
携帯電話かSNSか。
何かで中の人間達が情報を発しているのだろう。
「ふうん?・・・でも犯人達はそれ程、閉じ込めた人間達と関わっていないはずだろ?」
パチンコ屋に追い込み閉じ込め、「逃げるな」以外何一つ言っていないはずだ。
こちらに入る情報からは。
「・・・閉じ込められている人間達の中に奴らの協力者がいるな。ソイツが恐怖を利用して、監禁されてる連中を大人しくさせているんだ」
僕は推測した。
賢いな。
人間は何かにコントロールされると安心される生き物だからな。
不安であればあるほど。
「まあ、いい。人間達はそのまま閉じ込めておいた方が僕が動く分には都合がいい」
僕は言った。
上手く僕が奴らを始末する。
その後、犬達が責任を持って爆弾やらを処理すればいい。
本当にあるのなら、な。
おそらく殺すつもりなのは間違いないが、警察署や消防署でみせてデモンストレーションで使った高性能の爆弾はないように思った。
まあ、思うだけだけどね。
そこから先の責任は僕にはない。
さて行くか。
僕はヘリコプターのドアを開けた。
風が吹き込み、呼吸を塞ぐ。
すぐ下には繁華街の中にある小さな広場が見える。
ヘリコプターは着陸は出来ない。
建物が並んでいて危険というのはもちろんある。
でもそれ以上にグール達がこの街への出入りを見張っているのは確かで、着地すればすぐにヘリコプターは襲われるだろう。
しかも奴らは武装しているのだ。
まあ、僕は死なないので、一緒に乗り込んでいる犬達が死んでも全然構わないのだけど。
でも、それは正義の味方ではないからね。
それに、犬には後始末をしてもらわないといけないからね。
広場近くで一番高い5階程ある建物の上空でヘリコプターを停止めさせる。
この高さが精一杯か。
「じゃあ、行ってくるよ」
僕は言った。
そしてヘリコプターのドアを開けて、生身の身体一つで飛び降りた。
ともだちにシェアしよう!