141 / 156
V.S 5
「従属者」
グズが呟いた。
「うん、俺は従属者だ」
従属者は頷いた。
グズの顔が歪んだ。
泣きそうな顔をしていたのだ。
いつから接触してた?
いつからオレ達は見張られていた?
オレの中で混乱が起こったが、すぐに消した。
この二人の間にあるものが単なる悲しみでしかなかったからだ。
お互い人間同士のフリをして出会っていたのだろう。
相手を人間だと思いこみながら。
オレ達も元々は人間だ。
人間を喰う者と認識してはいても、人間の中に「お気に入り」が出てしまうことはあるだろう。
人間が食っている生き物の中に「お気に入り」を作ることがあるように。
ソイツだけは特別に食わないように。
人間を喰う生き物と、人間を残酷に殺す生き物の奴隷が人間のフリをして心を通わせていたのか。
笑えるな。
「グズ、迷うな!!ここを切り抜けるぞ・・・ソイツを殺せ、オレだけのために」
オレはグズに向かって怒鳴った。
グズの顔色が戻る。
「あんたのために・・・あんたの」
グズは何度も呟く。
グズもベルトに手をかけた。
そこにさしてある鉈に。
「ここにいないで欲しかったのに。殺したくなんてなかったのに!!」
それでもグズは捕食者に向かって怒鳴った。
捕食者は悲しそうな顔をしていた。
でも捕食者の伸ばした腕の先にある山刀は全くブレてはいなかった。
「君が好きだった」
捕食者は言った。
オレが聞いたことのあるどんな嘘臭い言葉より、嘘臭いシュチュエーションなのに。
人に刀を向けながら、なのに。
その言葉は本当のように聞こえた。
「おれもだ」
グズはそう言いながらベルトから鉈を抜いた。
グズの両腕が飛んで行く。
それをグズは呆然と見ていた。
オレもだ。
従属者は速かった。
オレ達など比べ物にならない位速かった。
いつ踏み込んできたのかもわからなかった。
わかったのはヤツのもつ2つの山刀が、光の軌道を2つ描いたことどけだ。
そしてグズの腕は肩から離れていた。
オリジナル、とはこういうことか。
僅かな肉片から伝えられた能力だけでもオレ達を劇的に変えた従属者の能力は、オリジナルの能力は、こんなにも速かったのだ。
たくさん喰って強くなったつもりでいたのに・・・。
グズか両肩から血を吹き出しながら、絶叫する。
従属者は顔色一つ変えなかった。
それでも、とオレは思った。
コイツは迷っているのだ。
首を切り落とせた。
まあ、オレ達首を切り落とされただけではしなない。
頭を潰さないと。
でも、腕より首を切り落とした方が、頭をつぶしやすいのは間違いないない。
でもコイツはしなかった。
迷いがある。
あるのだ。
確信する。
「グズ!!」
オレはあえてヤツとグズの間に飛び込んだ。
グズを庇うように。
両手を広げてグズを守る。
「ダメだ、退くんだ!!」
グズが怒って怒鳴る。
よしいいぞ、芝居じゃないからさらにいい。
「いいから逃げろ!!オレのことは気にするな」
オレは怒鳴り返す。
ソイツの構えていた刀が揺れた。
心の動揺だ。
いいぞ。
「あんたを置いていけるわけがない!!」
グズは叫んだ。
ヤツの瞳が揺れて、刀が揺れる。
甘い。
甘い。
コイツどんだけ甘いんだ。
バカだろ。
動揺し、ソイツはオレ達から目をそらしさえした。
今だ。
オレはソイツに向かって飛びついた。
動揺していたため、簡単にオレにソイツは飛びつかれてしまった。
オレは隠していたスイッチをいれた。
出来れば、使いたくはなかった。
これは。
この場面で使うつもりではなかったのに。
オレの腹に仕込まれていた爆弾はソイツとオレを吹き飛ばした。
ともだちにシェアしよう!