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V.S 6

 計算通り、だった。  爆発音と衝撃は同時だった。  肉体がバラバラになり、飛び散っていく感覚はさすがに生まれて始めてだった。  内臓がぶちまけられ、まるで身体の内と外が逆になったようだった。  この爆弾をつくらせたイカレタ爆弾魔は確かに天才だった。  喰ってしまったことを惜しいとすら思った。    オレの頭以外は綺麗に吹き飛び、従属者も身体が弾け飛んだ。  残念ながら従属者の頭は手足のなくなった胴体の半分に繋がっている。  だから死んでない。  ヤツは首を胴体から切り離さないと死なないのだ。 頭さえやられなければ死なないオレ達とは死ぬ条件が違う。  そう、もちろん、オレの頭は無事だ。  計算通りに。  あの爆弾魔、天才だ。  望み通りのモノをつくりやがった。  オレの身体は綺麗に弾け飛んだけどな。  首以外は綺麗に。  オレは首だけになって転がり、従属者を確認する。  千切れた手足、僅かに胸のあたりだけが残った胴体に繋がった首。    従属者の胴体から触手のようなものが蠢き始めていた。 再生しようとしているのだ。  ぬらぬらと光った血のなかで、蟲のように蠢くそれはオレ達が言うのはアレだが、気味が悪かった。  従属者は目を閉じていた。  衝撃に気を失っているのだ。    「ソイツの首を切り落とせ!!」  オレはポカンと立ち尽くしているグズに向かって怒鳴った。  グズは正気に返ってオレに駆け寄ろうとしたが、オレは怒鳴りつける。 従属者は首と胴体を切り離さなければ死なない。  「ソイツを殺せ!!殺すんだ!!」  だが、グズには腕がまだない。  だが・・・。  グズは吠えた。    メリメリ、グズの切断された腕があったあたりから、内部から食い破るようにそれは伸びてくる。  肉をブチブチと切断しながら、それは苦痛と共に、血にまみれて伸びていく。  指がとびだして来た。  内部から肉を貫き、血まみれになりながら。  次は手のひら。  指はなにかを掴むように、動いた。  オレの良く知っている、オレの身体を誰よりも優しく触る男の指だった。    グズが吠えた。    狼の遠吠えみたいな声で。  腕は伸びていく。    そして、グズの両腕は再生した。  血を滴らせながら。      グズは両肩で息をしていた。  再生には凄まじい苦痛がある。    身体の感覚を色々失ってしまったオレ達でも。    グズは落ちていた鉈を拾った。  「殺せ!!」  オレは怒鳴った。    グズは鉈を手にして、従属者の前に立った。    従属者は眠るように目を閉じていた。  その顔は幼い子供のように見えた。  グズはゆっくり鉈を振り上げた。  そして、鉈を振り上げたまま止まってしまった。  今度は振り上げた鉈をふるわせていたのはグズだった。  バカが。  躊躇しやがって。  オレは歯噛みする。  オレが色んなリスクと引き換えにやっと作ったチャンスだぞ!!  あの捕食者もバカだがお前もか!!   「殺せ!!グズ!!」  怒鳴りつけたなら、グズがビクリと震えた。  その両頬が涙で濡れていた。  グズは子供みたいに泣いていた。    「友達、なんだ」  グズが悲鳴のように声を絞りだした。    バカが従属者と友達になんかなれるわけがないだろうが。  向こうもこちらも殺し合うだけなのに。  「グズ・・・オレを守れ。ソイツはオレ達を殺しに来たんだ、そして、彼女をも。ここでお前が殺さなければ、彼女は死ぬし、オレも死ぬ。・・・オレは死んでもいいのか?」  オレは優しく言った。  グズ。  お前はいつだってオレの願いを叶えてくれる。  なあ、グズ、オレはお前が可愛いんだ。  だっていつだってお前はオレの願いを叶えてくれるだろ?  「・・・守る・・・守る・・・まもる」  グズは何度も自分に言い聞かせるように繰り返す。  ああ、オレの中に甘い感覚が起こる。  オレはグズが可愛くては仕方ない。  オレのために何だってしてくれる誰かなんて、この世界にいなかった。  ああ、可愛い、グズ。  友達だって殺してくれるよな。  オレのために。  可愛い可愛いグズ。    お前には守らなきゃいけないものがある。  なぁ?  だからオレの言うことを聞け。  オレの望みのままに動くお前をみてたら、オレは身体がなくても射精しそうだよ。  「おれはおれはおれはおれはお前が!!」  グズは叫びながらもう一度鉈を振り上げた。     そしてグズが鉈を振り下ろすのをオレは待った。  それはどんなにグズが迷おうと、そうなることをオレは知っていた。  グズは選ぶしかない。  殺すことを。  守らないといけないからだ。    「何でなんだよ!!」  グズは叫んだ。  でもグズが振り上げてた鉈の震えは止まった。    ああ、身体がないのに射精しそうだ。  オレは吐息を漏らした。  従属者の首は飛んでいくだろう。  それを見るのはデカいのをぶち込まれるより、良いはずだ。  身体がないのにぶっ勃ててるみたいだ。    「・・・ゴメン」  小さな声でグズは気をうしなったままの従属者に言った。  それはオレに向かって向けられるものとは違う優しさを含んだもので、少しオレは胸をざわつかせた。  その手で殺してもグズはコイツが好きなのだと思ったからだ。  グズは鉈を振り下ろし・・・、その瞬間、何かが光った。  従属者が降りてきたマンションの屋上から何かが反射していた。  「グズ、避けろ!!」  オレは怒鳴った。  鉈は大きく反れて地面に刺さり、グズは反射的にしゃがみこんだ。    銃声が響いた。  グズの首を銃弾が通り抜けた。  穴があき、血が吹き出す。  誰かがマンションからオレ達を銃で狙っていた。     「逃げるぞ!!」  オレは叫んだ。  いい腕だ。  じっとしてたら、狙われる。  オレとグズに、彼女は注目してしまって、監視を怠ったのだ。   無理もない。  彼女にもグズは特別なのだ。  その隙にヘリコプターから降りてあの屋上にまできたいたヤツがいたのだ。    次の銃弾は誰を狙うのかなんてわかっていた。   首だけになり動けないオレだ。  ヤバいと思う前にグズがオレに覆い被さった。  グズの背中に銃弾が撃ち込まれる。  オレ達は頭以外なら撃たれたくらいじゃなんともない。  やはり、オレが狙われていた。  グズは迷わなかった。  グズはオレを拾い上げ、走り出す。    その時、そのあたりにあった肉片をひろい、口に入れたのをオレは見た。  従属者の肉だ。  グズはそれを嚥下した。  グズのスピードがあがった。  銃声は何度かしたが、それはオレを抱えたグズの身体に追いつきはしなかった。  くそ。  せっかくのチャンスが。  仕切り直しだ。              

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