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V.S 8
「ごめん。ごめん、ごめん」
ガキが泣く。
子供みたいに顔をくしゃくしゃにして。
いや。
子供なのだ。
まだ。
子供なのだ。
僕は微笑んだ。
子供なお前を閉じ込めて、こんなことまでさせていながら、何一つ与えていないのは僕だ。
こんな子供に大人がもたれかかっている。
傷つけながら、奪いながら。
お前は本当に。
本当に。
僕は跪きガキの額にキスを落とした。
「出番は後回しだ。とにかく身体を再生させろ」
僕は囁き、唇にもキスをする。
離れる前に舌で唇をペロリと舐めたら、ガキが喘いだ。
頭だけでも、咥えさせたりは出来るよな、などという考えが出てきたことは正直に認める。
でもしなかった。
我慢した。
ガキに自分を物みたいに扱っているなんて思われたくなかったから。
僕にはお前の頭だけつかって咥えさせたりしたとしても、それは僕が死体でしていたこととは意味が全然違うのだけど、お前にそれを理解してもらえるとは思えないから、しないよ、絶対。
「殺さないとダメだった。彼は殺すのに。沢山殺すのに。閉じ込められている人達が沢山いるのに。止めないといけないのに」
少年は泣く。
僕が嫉妬交じりで友達を殺して欲しいとお願いしたところで、お前が決意を決めるのはそういう理由なのだ。
正義のためだ。
もちろん、お前が正義にこだわるのは、僕のような悪魔といることを自分に許すために必要なのはわかっている。
曲がりなりにも「正義の味方」で僕がいる限り、お前は僕のとなりにいれると思っているのだ。
僕が人間の為に捕食者を狩っている限りは。
お前はどうやったところで、邪悪にはなれない。
「アイツらはすぐには殺さないさ。人質は僕にたいする唯一の対抗策だ。人質を僕が見捨てないことをあいつらは知っている。僕は正義の味方だからな」
僕はガキに言い聞かせる。
これで人質を生かさないといけなくなった。
ちょっとくらいなら死んでもいいかな、誤差の範囲だと思っていたんだが。
殺させない。
ガキが気に病む。
さてと。
どうするかな。
「彼を離してやろうよ。自由にしてあげようよ」
不意にパジャマの声が聞こえたような気がした。
見回したがいるわけがなかった。
「どうした?」
犬が尋ねてきたが肩をすくめる。
うるさい。
黙れ。
黙るんだ。
「どうする?」
犬が聞いてきた。
僕はガキの髪をしゃがんで撫でなから犬を見上げる。
「あちらから僕に何か攻撃してくることはない。するとしても、攻撃という形ではないはすだ。とにかくガキの再生を待つさ。あいつらが狙ってくるとしたら、ガキかお前だし、ガキより殺しやすいお前を狙うさ、犬」
僕は言う。
犬は嫌な顔を隠そうとしなかった。
イラつく。
殺してしまいたいが、ガキの目の前では無理だ。
ガキが悲しまないやり方でないと。
いなくなっても仕方ないような、ガキが僕を疑わない状況を作らないと。
ガキはこの犬がお気に入りだからだ。
ムカつくことに。
ガキは僕が犬を殺すかもしれないと思っているからこそ絶対にバレないように殺さないと。
ガキは目を閉じている。
僕達は痛みを感じる。
再生が終わるまで耐えるしかないのだ。
人間が痛みを感じている姿は勃起するほど楽しいものだが、ガキが苦しむ姿はなんだか胸が痛む。
代わってやりたいとさえ思うが、こうするようにガキに命じたのは僕だから、そんなことを思う資格すらないだろう。
「中に潜り込ませている奴らからの連絡を待とう。お前はどこかに隠れてろ、頭を撃たれたら終わりだからな。奴らは射撃も上手い」
僕は犬に言う。
コイツが殺されればいいと思っているが、今じゃない。
犬は黙って姿を消した。
僕はガキの傍らに横たわった。
ウジが集るように肉片が、犬が丁寧に並べたガキのちぎれた身体の間で蠢いている。
ガキの再生スピードは僕と違ってゆっくりだ。
長く痛みに耐えなければならない。
髪を撫でた。
少しでも気が紛れるように。
優しくキスを唇に落とした。
お前が苦しむのが嫌だなんて、僕には言えない。
お前が苦しむ全ての理由は、僕のせいだから。
「沢山死んじゃう・・・」
ガキはそれでも、そう呟いた。
こうなっても、閉じ込められた人間を心配して。
「死なない」
僕は断言した。
「僕が助ける」
僕は正義の味方なのだ。
お前だけのために。
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