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V.S 12
「ゲス、誰も殺すな。今はまだ」
オレはゲスに言う。
警察署に集まってきた仲間達の中で一番タチが悪い。
コイツは婦警を残酷に犯し殺したくて仕方ないのだ。
警察嫌いで女はもっと憎いコイツには絶好のチャンスだからだ。
警察で女だなんて、殺したくてたまらないんだろう。
だが、まだしばらくは大人しくしてもらわなければならない。
コイツだけは本当の意味ではオレたちとは違う。
コイツはオレがスカウトした。
もとから動けなかったオレたちとは違い、オレが手足を切って動けなくしてからあの人の力で仲間にした。
人間を、(コイツは特に女を)心の底から憎んでいることではオレたちと同じだが、動けなかった時間を理解しあえるオレ達としての仲間意識は低い。
オレたちと行動している理由は、より暴れて殺して犯したいだけだから、一番コントロールがきかない。
だが、必要だ。
コイツはこれでも本職の「殺人者」なのだ。
捕食者の思考を少しでもトレース出来るのはコイツだけだ。
「つまんねーな。じゃあ後でグズを貸してくれよ。アイツのが一番いいんだよ」
ゲスの言葉にグズが顔を歪める。
グズはオレ以外とはやりたがらないが、それがなくてもゲスが嫌いなのだ。
ゲスはグズが嫌がるから余計にグズとしたくてたまらないのだ。
「わかった、わかった」
オレはめんどくさそうにいう。
グズがさらに顔をしかめたが仕方無いだろ。
お前だって、ゲスが始める嬲り殺しは嫌いだろう。
オレも、そういうのは好きではないしな。
コイツのはいたぶり殺す以上のものだしな。
食べ物で遊ぶにも程がある。
「捕食者はどうやってやって来る?」
オレはゲスに尋ねる。
ゲスはグズの股間を撫でて、グズに手を振り払われていたが、オレの言葉に振り返った。
「今、捕食者はどうしている?」
ゲスはオレに聞く。
「捕食者は?」
オレは捕食者の監視をしながらこちらに向かっているはずの彼女に確認する。
彼女を迎えにいかせた仲間が車で彼女とあの人をこちらに連れてきてくれている。
彼女はドローンを停止、固定させて、捕食者と従属者をそのまま監視していた。
「まだ従属者の隣で横になっているけど・・・いや、待って?」
彼女の声がうわずった。
「よこたわっているようには見える。でもね、コートを頭から被っているから・・・きちんとは見えないんだよね。でも・・・私は目を離したりはしてない、してないよ、そんな長くは絶対に。でも動かない。動かなさすぎる」
彼女が焦った。
確かめようがないが、捕食者はもう移動している可能性がある。
「・・・あのイカレた始末屋が、捕食者になったんだろ。なら、間違いない。オレ達に気付かれないようにここに侵入する」
自分もイカレた始末屋だったゲスが言う。
「堂々と切り込んでくるわけがない。油断させ、影から襲う」
ゲスは淡々と言った。
プロだった男の言うことには説得力があった。
正面から堂々と飛び込んでくるのようなバカはあの従属者のボウヤ位だろう。
あれはイカレた始末屋以上にイカレてる。
「もう忍び込んでいる可能性もある、ってことか」
オレの言葉にゲスは頷いた。
「連絡あるまでお前は外であの人と待機だ」
オレは彼女に告げる。
彼女の出番はない方がいい。
万が一の場合は彼女とあの人だけは逃がさないといけないし。
さて。
さて。
どうやって捕食者をはめるか。
綺麗で残酷な姿を思い出し、あんな男を性的な意味でもハメてみたいとは少しは思った。
そそり立ったあの男のアレを後ろに咥え込んで、上に跨がり腰をふってやったらどんな風に顔を歪めるのだろうか。
そそられた。
が、考え直す。
アレはだめだ。
ゲスより中身が腐ってる。
「一人になるな」
オレは仲間に指示を出す。
「一人、連れ出せゲス。お前の好みでいい」
オレはゲスに言った。
「お気に入りの婦警でも連れ出して嬲れ。遊びたいんだろ、してもいい。剥いて殴って、犯せばいい」
オレは言う。
ゲスは一瞬怪訝な顔をした。
オレがそんなことを言うとは思わなかったのだ。
それに・・・。
だが、ゲスはすぐにそれをのみこんだ。
ニヤニヤ笑った。
本当にゲスな笑顔だった。
「殴っていいのか?女のケツまで犯していいのか?制服は着せたままで。で、鼻とか削いで殺していいのか?」
ゲスは喉の奥から嫌な音を立ててわらう。
「・・・好きにしろ」
オレは言う。
虫酸が走る。
ゲスのやり口はゲスすぎて、オレでさえ不快になる。
組もコイツを処分しようとしてたのは納得だ。
ゲスすぎる。
コイツもオレと同じように母親に虐待されて育った。
性的な虐待も身体的な虐待も含めて。
だがオレはコイツみたいにはならない。
全ての女に母親の罪を返そうとは思わない。
だが、仲間の女にはそうしようとはしないから、コイツの中にも何か線引きはあるのかもしれない。
まあ、仲間の女から返り討ちってのもありえるしな。
俺たちには身体能力に男女差はない。
だが、コイツでさえ、彼女には気を使うようになった。
それはつまり・・・。
まあ、いい。
彼女は特別なのだ。
ゲスはウキウキと歩き始めた。
人質達を閉じ込めている部屋に向かう。
鮨詰めにしてある。
身動きも出来ないほどに。
人質の環境をととのえてやるほどオレ達は優しくない。
何より最初から全員殺すつもりだからだ。
ゲスが人質をえらぶためにドアを開けようとした。
そのノブにその指届いた瞬間、ゲスの指がバラバラと床に落ちていく。
指が落ちてから、血が遅れて吹き出した。
いつ近付いたのかも解らなかった。
ゲスのすぐ近くにソイツはいた。
脱いだコートを何かで膨らませて、従属者と共に寝ているように見せかけていたはずなのに、まだ黒いコートをソイツは着ていた。
何枚も重ねてきていたのか?
ゆっくりと裾が舞い上がっていたのが下りてくる。
瞬間に速く動いていた証拠だ。
長い黒いコートが翻るのが、まるで黒い翼をはためかせたように見えた。
冷たくきらめく瞳と、赤い唇が作る微笑は悪魔のように美しい。
捕食者の手はコートのポケットに突っ込まれたままだった。
だが、どうやってだがわからないがこの男はゲスの指を切り落としたのだ。
ゲスが指を失った手を見ながら、引きつった笑いを浮かべた。
この男の気配に誰一人気づかなかった。
この男の動きに全く気付かなかった。
だがオレ達は、男をそのままにするつもりはなかった。
「撃て!!」
オレは命じた。
そしてオレ達は撃った。
男ではなく・・・ゲスの方を。
ゲスの身体を弾薬が貫く。
動きのよめない男はオレ達の銃弾を避ける可能性があったから。
ゲスを撃つ必要があった。
その衝撃にゲスの腹に仕込んだ爆弾はキチンと作動した。
腹のある場所を撃ち抜けば、爆発が誘発できるようにしてあった。
オレ達は自分の身体をオトリにするために、爆弾を仕込んでいるのだ。
ゲスの首だけのこしたまま、爆弾は男のすぐ近くで男を吹き飛ばしながら爆発した。
ゲスの身体が破裂し、衝撃を腹から腸と共に撒き散らす。
男の身体が後方へ吹き飛ぶ。
血や肉片が舞い飛んだ。
ろん。
ゲスの首だけが転がった。
やはり、天才だ。
この爆弾を作ったヤツは。
ちゃんと首だけは残ってる。
注文通りだ。
男は吹き飛びはしたが、どこも身体は千切れてない
だが、今は通路に転がっている。
チャンスだ。
チャンスなんだ。
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