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V.S 16
オレはグスを待つ。
部屋にグスが入ると人質達の中で悲鳴があがった。
警察官だとしても、俺達の前ではただのエサだ。
ゲスがきちんとコイツらには恐怖を教え込んでいる。
目の前で男にイカされながら喰われる姿を見たなら、どんなに強靭な警官でも泣き叫ぶようになる。
ゲスのゲスっぷりは恐怖を煽るには最高なのだ。
それに抵抗など出来るわけがない。
丸腰で、オレ達相手に何ができる?
エサでしかない。
コイツらは。
悲鳴の中、グズか毛布でグルグル巻きにして拘束されているソレを担いできた。
ソレは身動き一つしない。
グズが部屋出るとすぐに、ドアにまたスイッチを入れてドアが開くと爆発するようにセットする。
今のオレはこの爆弾をつくった男の天才っぷりを尊敬するしかない。
計算通りの爆発をしてくれるのだ。
オレ達が身体に仕込んでいるこの爆弾はオレ達の首だけを残して吹き飛ばす。
捕食者に近寄りしがみつき、爆発させれば、さすがに身体が吹き飛んだ捕食者は、僅かな時間であれ無防備になる。
それを狙う。
天才だよ。
爆弾魔。
まあ、ソイツはもう喰ったしまったけどな。
上手かった。
肉も知識も。
でも、殺すには惜しい天才だったなコイツは。
オレはクスクス思い出し笑いをしてしまった。
爆弾を作り上げたなら助けてくれると信じ切っていたあの男の様子を思い出して。
「何笑ってんの?」
グズが床に毛布をグルグルまいて動けなくなった人質を投げ出しながら云う。
「気にすんな」
オレは答えた。
さらに笑顔になりながら。
そしてオレは大声をあげた。
「今から人質を一人殺す!!」
捕食者に聞こえるように。
聞いてるんだろ?
どうする?
どうする?
「クズ、手足を切り落とせ」
オレは言う。
クズは無表情に頷いた。
クズは鉈を拾いにいく。
クズはかすかな呼吸を示して動くだけの、毛布でぐるぐる巻きにされたそれのそばに戻る。
手足を斬ってもすぐには死なないだろう、多分。
捕食者を仕留めるために、すぐに死なれたら意味がないが・・・まぁ、何事にもリスクは必要だ。
オレは常にリスクと引き換えに動いているからな。
「やれ」
オレは命じた。
切れば現れる。
奴は人質が死ぬのを望まない。
少なくとも、それは命を大切にしているからではないだろうが。
クズが鉈を振り上げた。
毛布の上から斬るつもりだ。
上手く斬れるのか?
まあ、これもリスクだ。
「うわっ」
グズが悲鳴をあげた。
「へっ?」
オレも思わず声を出してた。
その冷たい感触に。
床を打つ水の音。
グズが振り下ろす前に、オレ達は降り注ぐ雨の中にいた。
冷たい水か降り注いでくる。
室内で、雨?
すぐにわかった。
スプリンクラーだ。
捕食者がスプリンクラーを作動させ・・・何のため?
何の?
オレは咄嗟に叫んだ。
「グズ逃げろ!!」
オレの言葉にグズが飛び退いた。
ぷしゅっ
空気が抜けるような音がして
飛び退いたそこに穴が開いていた。
大きな穴が。
綺麗な円形の穴が。
「よけたか。一度撃ったらしばらく使えないんだよね、コレ」
美しい声がした。
その男は真っ白な身体を恥ずかしげもなく晒していた。
いつの間にかそこにいた。
気配も、警戒していた血の匂いもしなかった。
真っ白な肌。
しなやかな筋肉。
あまりにも美しい身体だった。
なめらかな、彫刻のような。
淡く胸を飾る乳首さえ美しい。
そして全裸だった。
でもそんなことよりもその奇妙な右腕に目を奪われた。
白い腕は手首から先が銀色の銃になっていた。
腕と銃は融合しているかのようだった。
オレの頭の中にある喰ったやつからの知識が教えてくれる。
捕食者の能力。
撃ち抜くものを消し去る銃。
降り注ぐ水が、臭いや物音消していた。
捕食者は服を脱ぎ捨て、スプリンクラーを使い、血の匂いを消し、オレ達に近づいてきたのだ。
水の音と勢いよく落ちてくる水が邪魔だった。
視界と聴覚が遮られる。
それでもオレは叫んだ。
「やれ!!」
オレ達の腹にしかけた爆弾を使って吹き飛ばす。
そして、捕食者を動けなくする。
今、捕食者は銃を撃った。
あの銃は次に撃つまでに時間がかかる。
それまでが勝負だ。
近くで・・・爆発さえすればいい。
ゲスとオレは爆弾を使った。
持ってるヤツが行かないと。
今一番近くで向かい合うのはグズだ。
グズは飛びよけた反動で床に転がっていたが、唸り声を上げて捕食者を睨みつけた。
まだその距離では足りない。
「僕の攻撃を避けた、か。お前、ガキを喰ったな?」
捕食者は水に美しい裸体を打たせながらグズにいった。
美しい肌の上に水がながれる。
まるで水を纏っているようだ。
こんな時なのに見とれてしまう。
だが、気を引き締める。
そう、グズはオレが従属者をバラバラにした時、その従属者の肉を拾い喰った。
それはグズの肉体をさらに強くしたはずだ。
「僕のものなのに。ガキの髪の毛一本まで僕のものなのに。・・・お前だけは絶対に殺す!!」
捕食者は怒鳴った。
オレは捕食者が冷静ではないと判断した。
プロらしくない。
グズに異様に執着している。
グズを殺すために、最初からあの最終兵器である銃を撃ったこと自体がもう冷静じゃない。
よし、いける。
「グズ、そいつより、人質を!!」
オレは怒鳴った。
床に投げ捨てられたままの毛布に包まれたソレは身動き一つしない。
それこそがコイツへの対抗手段だ。
グズは捕食者へ飛びつく代わりに、人質へと向かった。
人質を殺すだけでもコイツにはダメージになる。
コイツは人質を殺さないゲームをしているからだ。
グズは鉈を振り上げ飛びかかる。
人質へと。
次の一瞬、何が起こったのかオレには見えなかった。
間違いなくそこにいたはずの捕食者が、一瞬で消えて、グズの腕をつかみ、捻り、投げ飛ばしていたからだ。
オレ達の視線から消えて。
オレ達の動きを読んでいるんだ。
呼吸はしてない。
してないんだぞ、オレ達は。
何で、読まれる?
オレの驚いた顔を見て捕食者がわらった。
「音だよ、音。お前達はこの音に支配されている」
せっかくだから教えてやる、みたいな感じで捕食者が言った。
音?
床をスプリンクラーが打つ水音?
それは絶え間なく聞こえる。
雨の音のように。
「単調に繰り返されるリズムが響けば、人間はそれに支配される。お前達もまた」
こともなげに捕食者は言った。
オレ達は無意識にこの水音に合わせて動いてしまっている?
そんなバカな!!!
でも、でもそうなのか?
「呼吸を読むより、今はお前達の動きを読むのは容易い」
捕食者は笑った。
聞こえるからな、と。
そして投げ飛ばされたグズの方へ捕食者は向き合う。
グズは人質のすぐ後ろに投げられていた。
捕食者の右手がまた変化した。
柔らかいゼリーのように解けて、銀色に輝く刀に変わる。
「殺してやる。もうガキがお前を見ることなんかない・・・もう二度と。お前なんかのために泣かない」
捕食者は笑った。
嫌な笑いだった。
嫉妬深い、狂った人間の歪んだ笑い顔だった。
にもかかわらす、美しかった。
グズでさえ一瞬見とれていた。
でもグズはやらなけばならないことをした。
グズは手をのばし、それを取り除くだけでいい。
毛布は実は人質の顔にあたる部分にだけ切り込みがいれてあったのだ。
グズは人質の顔から切れ目のはいった毛布を持ちあげた。
そこには目を閉じたしなびた顔があった。
捕食者は戸惑っている。
人質があまりにもやつれていることに。
まだ1日もたっていないのにこれほどまでに衰弱した人質に。
当然だコイツは人質じゃない。
そこには、長年動けないまま生きてきた男がいた。
そこには、オレ達の仲間になる前の男がいた。
目を開けて、その目の前にいる人間に自分と代われと願うだけで、不死身の化け物になれる男がいた。
捕食者を殺せるのは捕食者だけ。
コイツに有効なのはあの人の能力だけ。
オレはあの人に頼み一人の男に魔法をかけた。
寝たきりの男に。
目を明けて、ソイツと成り代わりたいと願えば不死身の化け物になれるように。
捕食者のための罠だった。
人質の中に紛れこませておいたのだ。
この男は願ってくれる。
話はついている
男はもう目をあけるだろう。
そして捕食者を見る。
それだけでいい。
捕食者の目とこの男の目が合えばそれでいい。
捕食者はこの男と入れ替わり、動けなくなるだろう。
そして、オレ達の新しい仲間が生まれる。
男はゆっくりと目を開けた。
捕食者も美しい目を見開いた。
やっと思い至ったのだ。
この男はグズへの嫉妬に捕らわれていて、この罠の可能性に気付かなかったのだ。
自分の可愛い従属者の坊やが、グズを殺せなかったのがとことん気になっているのだろう。
可哀相にな、立場が逆ならオレのグズなら坊やを殺してくれたぜ、きっと。
まあ、オレだけのためではないだろうけどな。
捕食者の身体が固まる。
床に寝転がるしなびた男の視線が捕食者を捕らえているのだ。
身動き一つとれない男が今、無敵で不死身の男を捕まえたのだ。
「クソッ」
小さく叫んで動かないのが笑えた。
「もう遅いよ。・・・大丈夫、動けなくなったら可愛がってやるから。あんたなら突っこむのもアリだ」
オレは笑った。
「殺す・・・お前、刻んで殺してやる!!」
そう怒鳴れるのがたまらなく気持ちいい。
動けなくなったその赤い唇からもれる言葉は、こうなりゃ可愛いだけだ。
「可愛がってやるよ」
オレは甘く言ってやる。
本気だった。
この男はいい。
美しい。
オレ達を殺そうとしていたのもいい。
全員で楽しんでやる。
喰うのはちょっと止めておく。
従属者はともかく、捕食者は喰った後の保証がないからな。
ピクン、
真っ白な捕食者の身体が揺れた。
顎が跳ね上がり、ふらつく。
まるで愛撫されているかのように。
揺れる性器が膨らんだのが見えて、オレは興奮してきた。
何これ最高。
ピクン
床に横たわる男の身体も揺れた。
しなびた顔に生気がやどりだす。
肌に瑞々しさか戻っていけ。
「クソッ・・・が、ああっ・・」
捕食者が僅かに動く手で、自分で胸をかきむしる。
指の間に淡い乳首が勃ちあがるのが見えた。
そこに唇を這わせたくなった。
舐めて、吸いたい。
コイツは最悪だ。
でも、間違いなく、この身体は最高だ。
犯して、喰いたい。
オレ達の誰もが思っていた。
グズでさえ、見とれて、慌てて首をふり、オレを困ったように見て来た。
「おれはあんたが一番・・・」
言いよどむ。
「・・・気にしねーよバカか」
と言いながらも気分はわるくはない。
「ああっ!!」
捕食者はビクンビクンと身体を震わせた。
捕食者は完全に勃起していた。
入れ替わる時のあの感覚的は、そう、セックスに似ていた。
白い尻が震え、膝がガクガクと震えている。
たまらない。
おそらく、入れ替わった瞬間全員が襲いかかるだろう。
喰ってはダメだが喰ってしまうかもしれない。
「ああっ・・・」
捕食者が射精しているのを見た瞬間、オレ達の何人かも間違いなくイったはずだった。
崩れおちる捕食者、それと反対にゆっくりと床から起き上がる、若い男。
入れ替わったのだ。
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