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V.S 17

 若い男は自分の手を見つめた。  動く腕。  脚。  押し切れない笑い声がもれ、声が出たことにさえ、男は驚いたように目を見張る。  わかる。  再びこの世界に生まれ直すことができたあの感覚。    オレにはこの世界に生まれたことが呪いだったが、この二度目の生には歓喜しかなかった。  うおぅ  うおぅっ!!!  男は喜びに震えながら吼えた。  獣みたいに。  男もまた、裸だった。  そして勃起していた。  そして、目の前に倒れた美しい身体がを見つめた。  舌なめずりしていた。   床に崩れ落ち、力ない目をぼんやりと開けたその男は、今はただ美しいだけで、食欲以外の意味でも食らいつきたくなる無防備さがあった。    そんな無力な身体を上からおちてくる水に打たせて。  もうその腕は銃でも刀でもない、ただの力なく床に投げ出された腕でしかなかった。  入れ替わりの相手を俺達は最初の餌にする。  だがこれは喰っていいものか・・・。  止めようとするより早く、それは起こった。  窓の割れる音と銃声はほぼ同時に聞こえ、今、入れ替わりを果たしたばかりの男の額に穴が開いた。    赤い点から血が流れ、男が前のめりに倒れるのと、窓ガラスを突き破りながら、何かか飛び込んできた。  誰かが窓の外から、男を撃ち、また別な何者かが進入してきたのだ。  オレは迷わず飛び込んできたソレに向かって銃を向けた・・・が。  オレの右手は落とされていた。  ゲスはまた首をハネられていた。  一人の仲間は頭から叩き割られて、一瞬で絶命していた。  銃を持つ腕ばかりが、床にころがっていく。  目玉から頭を串刺しにされて、絶命したのは女の仲間だ  腹の爆弾はともかく、俺達は一方的に武装を解除されられていた。  そう、少なくとも銃は腕こと奪われた。  無事なのは、銃ではなく鉈を構えていたグズだけだ。  そいつは、無表情なまま、やっと立ち止まり、両手に持っていた二本の山刀を振った。  血がとんでいく。  オレ達の血、だ。  Tシャツに動きやすそうなハーフパンツという格好だった。  オレに身体ごと爆破されたから新しい服をどこからか調達してきたのだろう。  見事に鍛えられた肉体は美しく、すずしげな顔立ちはこんなスプリンクラーの雨の中で、床の血が広がっていく中でも、冴え冴えとしていた。  従属者、だった。  身体が復活したのか。  姿を自在に消し、魔法のように動く捕食者とは違い、圧倒的な肉体の能力で襲ってくる従属者は、捕食者とはまた違い、そしてそれは、純粋な暴力として恐ろしかった。  ああ、オレ達より強い。  こいつら、は。  「ありえないだろ!!」  涼しそうな顔が一瞬で歪む。  牙をむき出しにした犬のように従属者が怒鳴った。  「信じられない、あんたバカだろ!!何してんの、なんで裸なんだよ、なんで人前でイってんの?、バカだろ!!」  真っ赤な顔をして従属者が怒鳴っているのは、床に倒れていた捕食者にだ。  ピクン、捕食者が動いた。  オレは舌打ちした。  まだ入れ替わりは完全には終わっていなかったのか。  オレ達も知らなかったけれど、入れ替わり途中で、死んでしまえば・・・。  捕食者はゆっくりと起き上がった。  入れ替わりは失敗したのだ。  額を撃ち抜かれ、床に倒れたオレ達の仲間になるはずだった男はもう、しなびた姿にもどっていた。  捕食者は立ち上がる。  美しい裸体に流れる水、髪に重く水を含ませ、睫毛を泣いたかのように濡らしながら。  濡れた性器。  白い尻も濡れていて、その雫を舐めとりたくなるほどにその姿はいやらしく、水気に満ちていた。  「ダメだ!!」  従属者が叫んで、山刀を投げ出した。    敵のど真ん中で、武器をほうきしたのだ。  そして、慌てて自分のTシャツを脱ぎ捕食者に頭から被せる。  「誰にも見せたらダメだ!!」  叫ぶように従属者が怒鳴る。  「見るな!!」  従属者はたまたま向かいにいたグズに向かって怒鳴る。  オレもだが、グズもガン見していたからだ。  いや、見ずにはいられないだろ、これ。  見るだろ。  「いや・・・でも、コイツが裸で出てきたんだぞ。最初から・・・おれが脱がせたわけじゃ・・・」  グズがもっともな事を言う。  全裸で出てきたのは捕食者の方だ。    「俺以外見たらダメなんだ!!」  従属者は捕食者の身体を自分のシャツでとりあえず隠しながら怒鳴る。  捕食者はまだぼんやりとしていた。  でも、答えた。  「別に見られても減るもんでもないだろ」  その捕食者の答えに従属者が激高した    「じゃあ、例えばさ、あんたはオレの裸とかイってるとことか人に見られてもいいってのか!!」  従属者が怒鳴る。  「うーん。嫌と言えば嫌だけど、お前が嫌がって、恥ずかしくて泣きながらイくのってそれはそれで、いいとか思うよね。見られてるのが嫌で、止めてって言いながらそれでも感じちゃってイくのってスゴイエロイよね。もう可愛いすぎて、余計に泣かせたくなるよね。あれ最高」  捕食者は言った。  あ、コレ、ちょっとオレもわからなくもない。  うん。  嫌がることをさせるのって、なんかクるよな。  グズが泣きながら、オレに言われるがままゲスを犯してるのとか、結構きたりするもんな。  嫌がりながら、でも腰をゲスにぶつけているグズにキスするのとか凄いいいよな。  あれはいい。  ガチでいい。  うんわかる。  わかる。  「何言ってんだよ!!」  捕食者の坊や。  「全然わかんねーよ!!」  グズ。  二人が同時に怒鳴っていた。  コイツらこういうとこ似てるな。    「だから、もうしてないでしょ。一回しかしてないでしょ。公園でした時だけでしょ」  捕食者がため息をつく。  一回はしたのか。    それはそれは面白かっただろう。  生き残っている全員が想像した。  公園で人前で、嫌がりながらも何度もイかされている従属者の坊やと、人に見せつけるように彼を抱く美しい捕食者を。    これは勃つ。  「あんたは!!あんたは!!」  従属者が顔を真っ赤にして怒鳴り、しばらくこらえていたが、ピシャリ、小さな音を立てて、軽く捕食者の白い頬を平手打ちした。  ほんの軽く、叩いただけ、に見えたのだが。          

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