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V.S19

 はぁ?  何考えてんだ。  バカじゃねぇか。  グズも従属者も何言ってんだ。  こいつミンチにしても死なない化け物だぞ。  しかも、笑いながら人間を刻むイカレた殺人鬼だ。  オレは呆れた。    こいつらの目にはこの化け物がどんな風に見えてんだ。  「大体グズ、てめぇ、何仲良くしてんだ、オレをこんな身体にしたヤツだぞコイツは」  首だけになったゲスが叫ぶ。  従属者に首を切り落とされたのだ。  痛みをこらえてせっかく再生したところだったのに。  床の水溜まりにころがされ、貯まった水を吐き出しながら捕食者達をにらみつける。  「お前はどうなってもいい」  グズは顔色一つ変えない。   そう言い放つ。  まぁ、グズはゲスが大嫌いなのだ。    最初から。  だからこそ、グズにゲスを抱かせるのは面白かったのだが。  嫌な男を泣きながら抱くグズは、嫌いな男の中で快感を得て泣くグズは最高に可愛いかった。  オレはこの馬鹿騒ぎの間にスプリンクラーが止まったことが気になっていた。  誰かが止めたってこと。  それは窓の外から撃った捕食者達の味方だと考えてもいいだろう。    ソイツはもうここにいる。  「全員殺したら許してやる」  捕食者が従属者の腕の中から囁いた。  「僕のために殺して」  すすり泣くような声はやはり、化け物の声でしかなかった。     最悪の生き物。  醜悪な殺人鬼。  喰って楽しむために殺すオレ達より、もっとタチノワルイ・・・。  「・・・・・・ごめん。愛してる。でも、そういうのじゃないんだ。そういうのはムリなんだ。でも・・・」  苦しげに従属者は言い、そっと捕食者を離した。  「オレ達が殺すのは【正義】のためだろ?」   その声には苦悩はあったが、迷いはなかった。  最悪だ。    最悪だ。  オレ達は力ではコイツらには敵わない。  さあ、どうする?    「グズやれ!!」  オレは叫んだ。  今、無傷なのはグズだけだ。   オレの右手は手首から先を切り落とされ、他の連中も似たようなものだし、仲間は二人殺された。  ゲスに至ってはまた首だけ  ものすごい汚い言葉を床にたまった水が口の中に流れ込むのを吐き出しながら喚いているけど。  すぐに手足など生やしてやる。  時間を稼げ!!  だが、希望はある。  捕食者はともかく、従属者の坊やはグズを殺せない。   甘いからな。   そしてグズはもうそんなに甘くない。  うぉぉぉっ!!  グズが吼えた。     グズのデカイ身体が弾けるように動く。   グズは迷いなく従属者を攻撃した。  そうだ。  それでいい。  捕食者は見守るだろう。  捕食者は出来るなら、坊やにグズを殺して欲しいのだ。  自分のために、グズを捧げて欲しいのだ。  友達を殺して自分に捧げて欲しいのだ。    最低な思考だぜ。  このオレだってそんなことは考えない。  ゲスなら考えそうだがな。  だが、ゲスは「愛」なんて動機は必要としない。その分、この捕食者のタチの悪さは最悪だ。  グズの身体が見頃に動く。   駒のように回転し、両手の鉈を坊やに向かって振るう。  右、左、間違いなく首を肩を腕を、はねるために鉈は動き、銀色の軌道をえがく。    坊やは身体を柔らかに使い、刀を見事に避けていく。  身体をそらし、刃を潜り抜け、ステップで交わす。  まるで、演舞をみているかのように、二人の動きはシンクロしていた。     それを捕食者は黙って見つめている。  坊やがグズを殺すところが見たいのか?  最悪な趣味だぜ。  おかげで助かるけどな。  オレも吠える。  今の内に。    耐え難い痛みに焼かれながら、手を生やす。  いてぇ、いてぇよ。  セックスしてぇ。  オレは、いや、オレ達はグズの稼いでくれた時間を使った。

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