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#3 この世界の違和感

 ──次に目覚めた時は、いくらか頭がスッキリとしていた。 「んーっ、ん?!」  起きあがろうとすると、隣に違和感が……。 「うわっ!!」 「あれ、起きた?」  褪せたグリーンの髪を無造作にかきながら、僕の隣に横たわる人は……たしか、カノキと呼ばれていた用心棒さんだ。 「び、びっくりしました……なんで?」 「え、いやー、寝てただけだけど」  寝るにしても何故隣に……と思っていると、カノキが立ち上がった。 「な……なんで裸なんですか?!」  カノキさんは何も着てない……何も着てない!! 「ん? あー、俺寝る時は全裸派だから」  「だいじょーぶ、まだ何もしてないよ」と笑いながら、裸で僕の前に堂々と立っているカノキ。恥ずかしくて見られない……。というか、〝何も〟してないってなんだ? 「あんた、ずっと寝てるから〝ヤる〟こと無いじゃん? だから、俺も一緒に寝てただけ。起きたらすぐ分かるし」  〝やる〟のイントネーションに少し違和感があったが、ひとまずスルーして僕も起き上がると……。 「え、なんで僕も裸?!」  何も着ていない。脱がされた覚えは無いのに……! 「俺が寝てる間に逃げられても困るからね。俺、脱がすのちょー得意だし。はい、これ着て」  カノキさんに服を渡され、着てみる。異国の衣装……? なんだか着慣れない感じだ。 「んー? あんた、服着るの下手くそだねぇ。そんなに珍しい形のやつでは無いはずだけど」  いつの間に服を着ていたカノキが、僕の身なりを整えてくれる。 「ほら、襟が折れてる、こうやって……」  僕の首元に顔が近付く、吐息が当たってくすぐったい。  思わず体に力が入った僕に気付いて、カノキはクスッと笑った。 「なーに? 感じちゃってんの?」  「ふー」と耳元に息を吹きかけられ、僕は思わず体をのけ反らせる。 「な、何するんですか!」 「いや何も」  「できたよ」とポンと肩を叩かれ、僕は我に返ったようにカノキを見た。 「んー……」  何か考えるように顎に手を当て、それから品定めするように僕をジロジロと見るカノキさん。 「あんた、ミコトって言ったっけ? 可愛いから、シちゃっても良いんだけど……でも、ご主人様に止められてるからなぁ」 「な……何をですか?」  ただならぬ雰囲気に、僕は警戒心MAX!  そんな僕を見て、カノキはふっと笑った。 「俺に対しては、そんなにかしこまって話す必要ないから、くだけた話し方で良いよ。名前も呼び捨てで。そんなに偉い人じゃないから、俺」  圧をかけられるような鋭い目付き。これは、断れそうに無い……。 「カノキ……で良いの?」 「うん、それで良い」  よしよーしと頭を撫でられる。僕、子ども扱いされてる? 「とりあえず、君の記憶が戻るまではこの城にいて良いらしいけど、何か思い出したこととかある?」 「んーっと……」  この世界は、僕の知ってる世界とまるで違う。でもそれを話して良いか凄く迷っていた。  シュッ── 「わっ!」  煮え切らない様子の僕に、カノキの腕がふわりと動いて、僕の首筋を捉えた。 「なーんか隠してる事あるでしょ。そういう顔、してるもん。分かるんだよね、そういうの」  思わず瞑ってしまった目を恐る恐る開くと、首筋にキラリと光る短剣……。 「は、話すっ! 正直に話すから!」 「よしよし良い子だね」  僕の首すじから短剣が消えた。満足そうな様子のカノキは、ニコニコとしながら僕を見る。 「とりあえず何か食べて飲む? 酒でも良いよ」 「お、お酒以外で……」 「はいはい」  カノキがチリンとベルを鳴らすと、執事のような身なりの男がやってきて、あっという間に食事と飲み物を運んできた。 (あれ、こういうのしてくれる人って、メイドさんとかのイメージだけど……)  ふと頭に浮かんだ疑問を、振り払う。今はカノキに僕のことを、ちゃんと説明しなければならない。 「──僕がここに来る前にいた世界は、こことは全然違うんだ」  カノキが用意させた料理は、見たことないものもあったけど、口には合っていた。少し食べて落ち着いた頃、僕は話し出す。 「世界が違う、ねぇ」 「あの、凄く説明しにくいんだけど、僕の世界にはグラジオス王国なんて国は無いし、この服もこの料理も見たことがなくて、それなのに日本語が通じるし……」 「にほんご?」  聞いたことないように首を傾げるカノキ。 「今、喋ってるのって、何語なんですか?」 「何語もなにも、この世界──って言った方があんたには分かりやすいかな。この世界の言葉は基本的に今話してる言語以外は無いよ」 「えっ……」 「北の外れの方ではちょっと違う言葉を使うこともあるみたいだけど、俺達が今話してるの以外は聞いたことがないね」  日本語が通じるなら、ここは日本のはずだ。  でも、派手な装飾の大きな城。中世ヨーロッパのようなアンティークのインテリア。こんな場所が日本にあるなんて、僕は知らない。 「こことは異なる世界から来た……もしかしたら、あの人なら分かるかもしれない」 「そんな人がいるんですか?」  カノキは、「にっ」と笑って言った。 「神に使える者。天使様だよ」 「天使様……?」 「会えるよう、俺がかけあってみるよ。このこと、ご主人様にも話さなきゃならないし」  カノキは立ち上がると、伸びをして部屋を出ようとする。 「あんたはここでしばらくゆっくりしてなよ。もし逃げようとしたら……分かってるよね?」  袖口からキラリと光る短剣を見せられて、僕はガクガクと頷いた。

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