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#5 歪な関係
──シオンのベッドルーム(ヤリ部屋)にて──
何度も荒く吐き出される2人の息が、しんと静まり返った広い部屋に響く。
「ご主人様、こんなこと言うのもどうかと思うけどさ」
「ん、なに?」
シオンの手がカノキの腰に周り、甘えるように手を絡める。
その手を握り返しながら、カノキはシオンと目を合わせて言った。
「この事、ヤナギさんは知ってるんだろ」
「まぁ、知ってるだろうね」
さらりと返すシオンは「私からは言っては無いけど」とつけ加えた。
「それだけじゃない、ヤナギさんや俺が居ない時、その辺の兵士捕まえてヤったりもしてるらしいじゃん」
「それが、どうしたんだい?」
「いや……」
カノキが少し黙ると、シオンは「ふっ」と笑った。
「君の話もよく聞いているよ。私にそんなこと言えたものではないと思うがね」
「うっ……確かに、俺は特定の相手は作らねぇ。ムラムラしたら、城以外の外の奴とだってヤったりする。でも、俺とシオンは立場が違いすぎるだろ。それに……んっ」
シオンがカノキの唇を塞ぐようにキスをする。「ちゅっ」と音を立てて名残惜しそうに離れると、カノキの頬がカッと赤くなった。
「私とするのは、嫌かい?」
「嫌とか……んっ、そういうわけじゃねぇけど、んっ……」
わざとらしく音を立てて唇を吸われながら、カノキは自身の体温が上がっていくのを感じた。
「いっ、良い気しないんじゃねぇか、ヤナギさんは」
「どうしてそう思う?」
「………」
「ヤナギは見た目通り、堅物だからなぁ」
そう言ってシオンは、言葉が出てこないカノキの頭を優しく撫で、立ち上がった。
チリン──
近くにあったベルを鳴らすと、間も無くしてドアが叩かれる。
「シオン様、どうされましたか?」
「げっ……」
ヤナギの声だ。カノキは急いで服を着ようとするが、間に合わない。
開いたドアから顔を覗かせるヤナギの目に映るのは、全裸でシャツを肩に羽織っただけのシオンと、ベッドにいる中途半端に服を着たカノキ。
「………」
少しだけ、ヤナギの目が曇ったように見えた。
「ヤナギ、私とこいつの着替えを。風呂に入って少し寝る。時間になったら起こしてくれ」
「こいつ」のところでカノキを指差すシオン。カノキは気まずそうにベッドから降りた。
「……かしこまりました」
「頼むよ、ヤナギ」
シオンはいたずらっ子のように微笑むと、颯爽と部屋を後にした。
「あの、俺、着替えは良いんで」
そそくさと部屋を出ようとするカノキ。すれ違い様、一瞬ヤナギと目が合う。
「はぁー……」
大きくため息を吐き、はだけた服を正しながら、カノキは大浴場へ向かっていた。
シオンのような身分の高い者やその周りの者以外は、たいていが大浴場で体を流している。カノキの自室にも簡易的な風呂は付いているが、あまり使っていない。
(ヤナギさんの〝あんな顔〟初めて見たなぁ)
──悲しそうな、もどかしそうな、なんともいえない表情をしていた。
「あ、あのっ!」
見覚えのある兵士が話しかけてきた。見覚えがあるというか、ヤリ覚えというか……。
「あの、カノキさん、今日とか時間ありますか?」
「んーなに? またヤりたくなっちゃったの? 欲しがりさん」
「あっ……」
ぽっ。と分かりやすく頬を染め、もじもじとし始める兵士に向かって、カノキは手を伸ばす。
「ちょうど風呂に行くところなんだけど、あんたも来る?」
「は……はいっ!」
──まあいいや、俺は俺で。ご主人様はご主人様だ。
ヤって忘れよー。
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