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#12 僕はこれから
──僕はヤナギのことが好きなのか?
……それとも、ただ構ってほしいだけなのか。
それが、今のシオンには分からなかった。ただ、ヤナギとの行為がやめられないのも事実である。
「ヤナギから誘ってくれば良いのになー、あいつ、いつも別のところで発散させてるみたいだし……はぁ」
シオンはため息をつくと、ぼうっと外の景色を眺めていた。
コンコン、とドアが叩かれる音がする。
「ミコト、ヤナギです。入っても?」
「は、はいっ! どうぞ!」
ヤナギさんが僕の部屋に来るなんて、珍しい。変に緊張してしまった僕の声は、少しうわずっていた。
カチャ──
ドアの向こうから現れたのは、ヤナギと黒い髪の知らない男の人。
「先程王子がここにいらしてたと思いますが……今後のことは何か聞きましたか?」
「え? あ、いえ何も……」
僕は先程シオンにされたことを思い出し赤面する。その様子を見たヤナギが、「ふむ」と顎に手を当てて言った。
「シオン様は〝ただ貴方に会いたかっただけ〟と申しておりましたので」
「そ、そうですか……」
話題を変えたくて、僕は黒髪の人の方を見る。
「あの、その人は……?」
その人と目が合うと、人懐っこい笑みで軽く手を振ってきた。
「彼の名はアルム。この城の使用人全体をまとめる執事長です」
「この人が……?」
「ミコト……っていったっけ? 君、なかなか言うねぇ〜。こう見えても俺は、結構偉い立場にいるんよ」
いくつものアクセサリーをチャラチャラとさせながら、微笑むアルム。
「彼は〝こう見えても〟仕事はちゃんとできる人なので」
「ヤナギさんも、言うね〜」
ゆるゆるとしまりのない話し方のアルム。ヤナギは咳払いをひとつすると、姿勢を正した。
「ミコト、貴方には今後シオン王子の付き人として、この城に居てもらいます」
「僕が……付き人?」
「本来、このようなよく分からない者を付き人にすることは異例中の異例ですが……天使様がシオン様のそばに置くようにと、そのような神のお導きがあるとのことでしたので」
「それで、基本的なマナーや立ち振る舞いの訓練を、俺が任されたわけ」
自信たっぷりに言うアルム。
「なるほど……」
僕は急なことに、ただただ話を聞いて、頷くことしか出来ない。
「民の者にも、貴方の存在は公表します。天使様お墨付きの付き人だと……そうすれば、少しは貴方の立場もはっきりして、この国で動きやすくなるでしょう。このような特例を許してくださった、シオン王子にも感謝なさって下さいね」
「はい……」
ヤナギに圧倒され、僕はシオン王子の付き人になることを承諾せざるを得なかった。でも、次にシオン王子と会うの、ちょっと気まずいな……。
「とにかく、まずは城の中の地図を覚えて、雑用からな! 明日からよろしく、ミコトくん」
アルムに城の地図を渡され、軽く握手される。
「は、はい、よろしくお願いします……!!」
こうして僕は、この世界でシオン王子の付き人として修行することになった。
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