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#15 どこまでしたの?
──僕が洗濯物を抱えて歩いていると、ふわりと何者かが上から降りてきた。
「うわっ!」
驚いた僕はバランスを崩して、後ろへひっくりかえりそうになる。
「ちょっ……あぶな──!」
倒れる寸前に支えられて、僕は転ぶのを免れた。
「あ……ごめん、驚かせるつもりじゃなかったんだけど」
「カノキ!」
「ほんとごめん……それ運ぶの手伝うよ」
カノキは僕の持っていた洗濯物を軽々持ち上げる。
「わ……悪いよ、僕の仕事だし」
「あ、仕事取ったら悪いよな。じゃあ半分だけで」
僕の方に半分だけ、洗濯物が戻される。
「なんかカノキと会うの、久しぶりだね」
僕はカノキと並んで歩く。
「昨日まで城外に出てたんだ。……ちょっと野暮用でね。一緒に居れなかったけれど、あんたに危険なことはなかった?」
何気に気にしてくれていたらしい。僕はちょっと嬉しくなる。
「ありがとう。大丈夫だったよ」
「そうか……よかった」
そして会話が途切れる。ふと、沈黙に耐えきれずカノキの方を見ると、大きく開いた胸元に赤い痕がいくつか付いているのが見えた。
「……ん?」
「あ、ごめん……」
カノキが僕の目線に気づいて俯いた。目に暗い光が宿る。
「俺のこと、汚いと思うでしょ?」
「そんなこと……ないよ」
「本当に?」
カノキは、僕と目を合わせてくれない。
「城外の奴にちょっと〝お願いごと〟があって……なかなか聞き入れてもらえなかったから、代わりにヤったらこれだよ。俺、ヤられるほうあんまり好きじゃないんだよねー」
「そ、そうなんだ……」
気まずそうな僕に、カノキはハッとして僕を見る。
「ごめん、こんな話……でも俺、ご主人様に命じられたことは、何があってもやり通すって決めてるから」
「ご主人様って、シオン王子のこと?」
「そう。俺は拾われたんだ、ご主人様に」
洗濯場に着くと、カノキは僕の手を取る。
「洗濯はここにいる人達に任せて、俺たちは行こう。ご主人様に呼ばれてるんだ」
「え? シオン王子に……?!」
僕が立ち止まると、カノキは言いにくそうにしながら口を開く。
「え、あんたまさか……〝アレ〟から一度もご主人様に会ってない?」
僕が無言で頷くと、カノキは「えーっ」と言う。
「そういえばさ、どこまでヤったの? もしかしてもう、挿れられちゃった?」
冗談ぽく僕の耳元で囁くカノキ。
「キ……キスと、指だけ……」
「へぇ……じゃあまだギリギリ処女なんだ、良かった」
「なっ、何が!」
「別に、何にも」
へらっと笑いながらカノキは歩き出す。──僕と手を繋いだまま。
「まーご主人様とはちょっと気まずいと思うけど、大丈夫大丈夫! 行くよー!」
「え〜〜!!」
僕はカノキに言われるがまま、シオンの執務室へと連れて行かれた。
──カノキが城へ戻る1週間前──
「──話って、何ですか?」
カノキはヤナギに呼び出されていた。よりによってヤナギの自室だ。
(……嫌な予感がする)
ぶるっと身震いするカノキに、何てことない表情でお茶を出すヤナギ。
「シオン王子の命で、貴方にちょっとしたお仕事の話です」
ヤナギは、淡々と話しだした。
「いつもの、ですか?」
「まぁそうですね……一度貴方のおかげで壊滅した闇市場があったでしょう? あれの生き残りが、貴族と手を組んで、またこっそり怪しい薬やら違法なものを売って、儲けているそうです。手段は問わないのですが、その貴族は王子と少しだけですが、縁があるようで……」
「殺さずに、言うことを聞かせろってことですか?」
カノキの低い声に、ヤナギは頷く。
「王子が、今回は殺しではなく〝話し合い〟で済ませろと……」
「なるほど……ややこしい案件は、俺にお任せってことですね。分かりました」
「よろしくお願いします。そういえば、カノキ……」
立ちあがろうとするカノキの腕を引き、再び座らせるヤナギ。
「ミコトと王子の件なのですが、カノキは一部始終を知ってると聞きました」
「あー……俺、用事思い出しましたー……」
カノキは逃げようと身体をひねるが、凄まじい力で腕を握られていて、びくとも動かない。
「……教えてくれますよね?」
カノキをベッドに放り投げ、下に組み敷くヤナギ。
「それ、脅してるつもりですか? 俺からしたらご褒美っ──」
口にディルド(かなり太め)を咥えさせられ、カノキの顔が真っ青になる。
「言わないようでしたら、これをいきなり挿して差し上げますよ」
カノキは冷や汗を流しながら、首を何度も縦に振った。
「……良いでしょう」
太めディルドから口が解放されると、カノキは震える声で言う。
「俺も隣の部屋に居ただけだから、詳しくは……でも、ちゃんとミコトから聞くので、そしたらヤナギさんにも教えますんで……!!」
──ほんと! 玩具だけは勘弁ですっ!
必死な形相のカノキに、ヤナギはふっと力を抜く。
「……分かりました。では、お仕事が終わった後で良いので、必ず教えてくださいね」
普段あまり笑わないヤナギの微笑みは、冷たく刺さるように感じる。
「それでは、俺行ってきます!」
カノキは転がるように部屋から出ていった。
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