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#22 僕は主人公だから

「カノキ……」  カノキは僕と目が合うとハッと我に返り、ふかぶかと頭を下げた。 「申し訳ございません。いきなり入るような失礼を……」 「どこの誰か存じ上げませんが、立ち聞きはあまりよろしくないと思いますよ」  ナツキの声は、刺さるように冷たい。 「話の続きは晩餐会でいたしましょう。レイ様は準備がありますので……」  ナツキに目配せされ、僕は立ち上がった。 「では僕は、失礼いたします……」 「そうね……ミコト、あとでね。あ、晩餐会の時は、話がややこしくならないように、私のことは〝お兄さん〟って呼んでね」 「うん……分かった」  レイに見送られながら、僕は客室を後にした。 「ミコト、ごめん、俺……」 「気にしないで、聞こえちゃったんだね」  僕に言われて、カノキは耳を軽く手で塞いだ。 「聞くつもりじゃ無かったんだけど、色々気になってたらさ……本当にごめん」 「大丈夫だよ」 「ミコト、ちょっとこっち来て」  空いてる客室のドアを開け、僕に入るように促すカノキ。 「え、あ、うん……」  客室の扉を閉めると、カノキは僕の肩を持った。 「ミコト、ごめん……俺、あれからミコトのことずっと避けてた」 「え……?」  そのままじりじりと壁に追いやられ、僕の背中はピッタリと壁につく。 「俺は城に来るまで、生き甲斐が無かった。ご主人様……シオン王子に拾われて、それから俺の生きる意味はずっとご主人様だけだったんだ。なのに……」  俺は、ミコトのことが好き── 「好きだ、ミコト。俺なんかこんなこと言って良い立場じゃないのは分かってる。でも好きだ……!」  必死な声。カノキの吐息が鼻に当たる。顔が近い、熱い、誘われるように唇が近づく……。 「まっ……て」  僕の言葉に、カノキは唇が触れ合う寸前でピタリと止まった。 「カノキは、なんで……僕のことが、好きなの?」  ここは乙女ゲームの世界だとして、レイに聞いたことから察するに、僕は主人公なんだと思う。攻略対象の人物が主人公に恋をするのは……それは、本人の意思なのだろうか? 「なんで、か……はは」  カノキは力なく笑って、腕をだらりと下げた。 「一目惚れ? いや、それも違う気がする……何かもっと、強く惹かれるようなものがあるんだ、ミコトには」 「カノキ……」 「やっぱだめだよな、俺なんかじゃ、ミコトを幸せに出来ない」 「違う! そうじゃなくて……」  うまく説明出来ない。ここがゲームの世界だなんて、誰が信じる? 「良いんだ……でも、これを伝えないまま他の国に行っちゃったら、俺、一生後悔すると思って」 「ごめん、カノキ……」  もっと色々言葉をかけてあげたいのに、何も思いつかない。カノキとの距離が少しずつ開いていく、熱が、冷めていく。 「あんたも晩餐会の準備、あるよな。アルムさんが待ってたよ、行きなよ」 「う、うん……」  カノキはこの世界に来てから、一番近い存在で、一緒にいることも多かった。カノキの想いにちゃんと向き合いたい。でも、カノキが好きなのはきっと、僕が〝主人公だから〟── 「浮かない顔だね」 「アルムさん……」  アルムは僕の身なりを整えてくれていた。髪の毛をセットしているとき、アルムの手が一瞬、僕の耳に触れる。 「……っ」 「あ、ごめんね」  アルムの唇が僕の耳に近づく。 「君はやっぱり、この城にいるのは危ないかもね」 「ど、どういうことですか?!」 「だって君は、惹きつけるから、俺たちを」  「はい、終わり」と言って、アルムは僕の肩をぽんと叩いた。 「時間になったら晩餐会のホールに降りてきてね。俺は準備を手伝ってくるから、君は今回王子たちと同席する立場だから、時間までゆっくりしていて」 「は、はい……」  僕は好かれている。〝主人公〟だから──  ふと、天使様──クレオの言葉を思い出す。 ──5人の人物が見えます。ミコトはその方達にときめいて、恋に落ち、溺れる。そして……

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