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#23 晩餐会にて
「……なるほど、ここは君たち兄弟にとって〝ゲームの、世界〟と言いたいんだね、レイ王子」
「信じられないかもしれないが……その通りだ。私が違う世界から来たことも、今までシオン王子に黙っていて申し訳ない」
レイは器用に料理に口をつけながら、〝王子口調〟でシオンと話している。僕とレイが兄弟であることと、レイが客室で僕に話したことは、だいたいシオンに伝え終えたところだ。
「構わないよ。君の国とは長い間良い関係が続いているからね。いきなり君が王子に即位したのには驚いたが、きちんと王子として働いて、友好関係を築いてくれていたことは知っている。この程度の話で、君への印象が悪くなることは無いよ」
「寛大なお心遣い、感謝いたします」
そんな2人に挟まれて、慣れない作法で料理を頂く僕は、いまだ話を聞くことしか出来ていない。
「それで、だ。僕が知りたいのは、このいきなり現れたミコトに、強く惹かれてしまう理由だ」
「それはまた、直球な質問だね……」
レイは冷静を装っているが、頬には冷たい汗が流れている。
「私は……ミコトがこの世界における〝主人公〟だと考える。そして、シオン王子とその隣に立っている……ヤナギ、あとそこのカノキとアルム。この4人は、ミコトに惹かれる運命にあるといえるだろう」
「我が城の天使は、5人と言っていたが……君が知るのは4人だけか?」
シオンの問いに、レイは頷いた。
「私が知っているのは、この世界がゲームに似ていることと、そのゲーム内で今言った4人が、主人公に惹かれる立場にあったこと。それ以外の記憶は、この世界にきてから思い出せていない……」
「では、そのゲームで私たちがどのような結末を迎えるかも、分からないということだな」
「あぁ。私から話せることは以上だ」
「ふむ……分かった」
しばらく沈黙が続いた後、レイが口を開いた。
「私は……ミコトを私の国に引き取っても良いと考えている」
「………」
シオンは何も言わずにレイを見る。
「ミコトは恋愛するには、まだこの世界にきて日が浅すぎる。それに、ミコトがいなければ、あなた方が自身の意思に関係なく惹かれてしまうのを防ぐこともできるだろう」
「悪い話では無いと思うが」と言うレイの言葉に、攻略対象の4人がピクリと反応する。
「それを話し合う前に、ミコトはどうしたいか聞きたいね」
シオンは僕に向かって言う。ついに僕が話さなければいけない話題になってしまった。
「えっと……天使様が言うに、僕は恋愛をしなければ帰れないのですよね?」
「天使はそう言っていたな。セックスしないと帰れないそうだ」
ピシッ──
その瞬間、室内が凍りつく音がした。
レイは驚きすぎて目が点になっている。僕は俯いたまま顔を上げることができない。
シオンは悪びれもなく続ける。
「まぁ、あくまでこれは天使の予言に過ぎない。実際のところは分からないよ」
「ぼくからひとつ、よろしいでしょうか?」
レイの隣で食事の世話をしていたナツキが、口を挟む。
「この国の天使様は、他と違ってかなり優れた力を持っていると聞いたことがあります。その天使様が予言されたこと……とても信ぴょう性は高いと思います」
「僕は……やっぱり元の世界に帰りたいです」
「ミコト……」
心配そうなレイの声。
「ただ、セッ……も言ってましたけど、天使様は、ときめいて、恋に落ち、溺れるとも言っていました。とても難しいことだと思います。でも僕、できることはやってみたいです」
「それでは、この城に残ってくるんだね?」
「はい」
「ミコトがそう思うなら、仕方がない……まぁ、近いうちに私の国へ遊びにおいで。歓迎するよ」
「ありがとう、お兄さん」
慣れない呼び方をする僕を肯定するように、レイは僕に微笑んだ。
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