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秋祭り③

「勃ってなきゃ、できなくない?」 「……じゃなくて、なんで勃つの?」 「興奮してるから」 「俺の身体で?」 「そうだよ。悪い?」 「……ううん」 奏はかぶりを振った後、小声で 「……嬉しい」 と呟いた。 奏もゆっくり下半身を脱いでいくと、彼もまた同じような状態になっていた。 「奏も俺で興奮してるんだ」 響が笑みを浮かべると、奏は恥ずかしそうに顔を背けた。 「……脱いだよ。 で——ここからどうする……?」 奏が視線を外したまま問う。 「俺も、男同士ってどうやればいいか、よく分かってない。 でもとりあえず、気持ち良いと思うことをすれば良くない?」 「そんなんでいいの?」 「お互い手探り状態なんだしさ、そういうことからやっていけばいいじゃん」 響はそう言って、奏の首筋に唇を這わせた。 「ッ——」 奏の身体にぞくりとした快楽が走る。 「ここ、気持ちいい?」 「……気持ちいい」 呼吸を乱して奏が言うと、響は暫く首筋を愛撫した後に、「腕、上げて」と言った。 「こう……?」 奏が片腕を上げてみせると、響は露わになった脇にも舌を這わせた。 「ひゃっ!?なにするの」 奏が驚いて身体を震わせると、 「ここはどう?」 と響が再び尋ねた。 「……びっくりしたけど、気持ち良い」 奏が答えると、響は脇の下も丁寧に舐めていった。 ——その後も響が、指先や背中など、身体のパーツ一つ一つを愛撫していくたびに 奏は身体をよがらせ、反応を示した。 「……セックスって、こういうことするの……?」 浅い呼吸を繰り返しながら、奏が尋ねる。 「これって、合ってるの……?」 「わかんないけど、奏が気持ち良いなら、全部正解でしょ」 「そうなんだ……」 奏は不思議そうにしながらも、なるほどと頷いてみせた。 そんな仕草すらも愛らしく感じた響は、唐突に顔を近づけ、無防備になっている乳首へ舌を這わせた。 「はぅ——ッ」 奏が一際わかりやすく声を漏らす。 響は乳首を舐めながら、へそにも指を伸ばす。 「あッ……あ……ぅ」 舌にも指先にも、こりこりとしたピアスの感触が伝わってくる。 そこを舌や指でくりくり触ると、奏はそれに合わせてビクビクと身体を震わせた。 「色々触ったけど、やっぱ奏が特に弱いのはここなんだね」 響は乳首とへそを弄りながら奏に言った。 「あ……、あっ、あ……ふ」 響の刺激で奏から艶めかしい声が絶えず漏れる。 「あとは、ここ——だよね」 響は陰部に視線を向けて言った。 「そこも、触るの……?」 「もちろん」 響は奏が何か言うより早く、はちきれそうになっているその場所を掴んだ。 「あぁッ——」 その刺激で、奏は悲鳴にも似た声を上げた。 「だっ、だめ……っ」 「嫌?」 「ヤじゃない。だけどこんなことされたら、俺——ぁ……」 奏が止めようとした直後、響の手に熱いものが撒き散らされた。 「あっ……あっ……」 奏は顔を真っ赤に染め、焦ったような表情をしているが、そこからは絶えず液が溢れ出してきた。 響の手だけでなく、布団の上にまで液がこぼれ落ちて行き、奏はぐったりとした表情になった。 「……っ」 しんどそうに息を吐く奏を、響は不思議な気持ちで見つめていた。 奏とは同じ屋根の下で暮らしてきたのに、 奏のこういう表情を見るのは初めてだ。 たった一晩のうちに、関係が大きく変わったのだと実感する。 変わったというより、進展したと言うべきか。 タイムスリップした直後は、まさか奏とこんな関係になるとは思っていなかった。 半年とちょっとの間に、俺と奏がこういう関係になるベースが構築されていたのかと思うと不思議な気分だ。 だって俺はずっと、奏をこんなことする対象には見ていなかったから。 なのに今は、こんなに奏のことが愛らしく見えて、もっともっと奏のことを気持ち良くさせたいって欲が芽生えて、それから—— 奏のことを幸せにしてあげたいって思う。 ——これが『好き』って気持ちなのかもしれない。 そうじゃなかったら、決してこんな関係にはならなかった。 奏が殻を破ってくれたから、俺も殻を破ることができた—— 奏を優しい目で見つめていると、ようやく呼吸の整ってきた奏が目を開け、顔を上げた。 「……響にも同じことをしたら、気持ちよくなれる……?」 「え?」 「今度は、響が気持ち良いと感じることをしたい」 奏はそう言って響の首筋に唇を乗せた。 その瞬間、響の身体に電流が走る。 「——ッ!?」 あまりの気持ち良さに、一瞬何が起きたのか理解できずにいると、奏が唇を離してこう言った。 「響が触ってくれたとこ、全部気持ち良かった。 だから俺も同じように響に触れたら、きっと響も気持ち良くなれるよね?」 「……ぁ……」 響がきょとんとしている間にも奏は響の腕を持ち上げ、脇の下に舌を這わせた。 「ッ!あ……っ」 思わず声が漏れ、響は自分自身に驚いてしまった。 嘘だ。 脇を舐められたくらいで、こんな気持ち良いわけ—— 「次は、ここだったよね」 「ッ!!」 奏が肩から二の腕にかけてを愛撫していくと、再びゾクゾクとした快楽が全身に広がった。 甘い痺れが絶えず襲ってくる。 こんな経験は初めてだった。 それからも奏が触れた場所は驚くほど敏感に反応し、響の身体を驚かせた。 奏の舌が胸に来ると、響はより一層、大きな声を漏らしてしまった。 「んっ……ぁ……!」 「胸、気持ち良い?」 「……っ、きもち……ぃ」 響が答えると、奏はへそにも指を伸ばす。 「あッ」 「おへそも気持ち良い?」 「……ん……」 まさかそこで感じると思っていなかった響は、 まるで自分の身体の感覚が奏とリンクしてしまったかのような錯覚を抱いた。 「あと……ここだね」 奏は響の陰部に手を這わせ、 「力はこれくらいだったよね」 と言ってぎゅっと程よく力を入れた。 「ッ!!」 奏が上下に動かし始めると、響はあまりの気持ち良さに失神しそうになった。 奏は不思議なほどに、響の理想とする力加減、強弱の緩急でそこに触れていた。 まるで響の感じている感覚を共有しているかのように、的確に擦り続けた。 「……気持ち良い……」 思わず声に出して言いたくなってしまい、そう漏らすと、奏はほっとしたような表情を見せた。 「良かった。じゃあ……もっと気持ち良くする」 「へ……?」 奏は陰部を動かしながら、もう片方の手で響のへそを、舌先で乳首を迎えに行った。 身体の上から下まで、一度に強い刺激が襲ってくる。 その快楽に、響は一瞬、天国のような景色が見えた気さえした。 怖いくらい、気持ち良い。 頭が働かない。 響の意識が途切れかけた時、身体中から熱いものがせり上がり、外へと放出される感覚があった。 「はぁ……っ、はぁ……」 イッてしまった—— 響はそう思った直後、そのまま布団に倒れ込んだ。 あまりの気持ち良さに、達した後も身体の疼きが止まらない。 何度も快楽の波が脈打ち、終わった後も高揚感が抜けきらない。 そんな絶頂の中、響が辛うじて目を開けると、隣に横たわってこちらを見ている奏の顔が見えた。 「……そ、う……」 「気持ち良くなれた?」 「……うん……おかしくなるくらい、気持ち良かった……」 「そっか」 「……奏、もっと近くに来て——」 響は奏を抱き寄せると、自分の二の腕に奏の頭を乗せさせた。 「……ありがと、奏……」 「……俺も。ありがとう」 奏が『ありがとう』と口にしたのは、これが初めてだった。 ——互いに果てた身体で抱き合っているうちに、いつの間にか眠りに落ちてしまった二人。 響が目を覚ますと、部屋の中で既に朝の支度をしている奏の姿があった。 珍しいな。奏が先に起きてるなんて—— そう思うと同時に、昨晩の出来事を思い出す。 可愛らしくて、それでいて色気に満ちた奏の表情。 身体に残る、快楽の名残り—— ……一夜過ぎて冷静になった今でも、確かに感じる。 奏と垣根を越えた関係になれて良かった——と。 響は昨日感じた自分の気持ちが衝動的なものではないことを実感した。 一方の奏は、目を覚まして布団から起き上がる響を見て、いつものような口調で言った。 「起きるの、ずっと待ってたんだけど。 さっさと朝食食べて現場に行こうよ」 「あ……うん」 あれ?奏は……なんか、今まで通り……だな。 冷めた雰囲気の奏に、響は気後れしそうになりつつも 慌てて服を着替え、朝食を済ませて撮影現場に向かった。 「……うーん。もう少し、なんだけどなあ……」 ——映画の見せ場の一つである、大久保と西郷が口論をするシーン。 事前に何度も五十嵐と打ち合わせをした箇所だが、奏の演技には何度もリテイクが入った。 これまでの撮影では、奏の多少荒削りな演技に対してあまり注文をつけてこなかった五十嵐だが、このシーンには強いこだわりがあるらしい。 「このシーンだけは、芝居感のある演技は排除してほしいんだよ。 口論をしているうちに、感情の昂りが抑えきれなくなる大久保。 こんなに感情的になるのは自分らしくないと戸惑いながらも、それでもせり上がってくる思いを言葉にせずにはいられない。 大久保の感情が激しく揺れ動くシーンなんだ。 ——だけれども、大久保はあくまで表向きは沈着冷静であるように振る舞いたがる。 それが彼にとってのプライドであり、好きな相手——つまり西郷に対して張れる唯一の見栄だからだ。 だから淡々と話しながらも、心の内の激しい炎をセリフ以外の部分で表現してほしい。 目線、仕草、間の取り方——それらを使って大久保利通という人間を演じてくれるかな」 スタッフ席に座っていた早苗は、隣に座る響にこそっと囁いた。 「監督の指示、めちゃくちゃ難しくない? このシーンに何時間かけるつもりかしら」 カメラの前で、何度も演じ直す奏。 段々と疲れの色が見え始め、代わってあげられるものならば代わってあげたいとも思うが、大久保の役は奏が演じ切らなければならない。 それと同時に、このシーンで口論をする相手役でもある速水もまた、何度も怒鳴り声を発しているせいで喉が枯れかかっていた。 「……少し、いいっすか?」 ——何十回目かのリテイクの後、不意に右京が言った。 右京は奏に歩み寄ると、五十嵐や周囲には聞こえない声で囁いた。 「奏さん。俺——いや西郷のことを、響だと思って演じてみたらどうっすか?」

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