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寝台列車旅行②

奏は響と上下反対側を向いて覆い被さると、響のシャツを捲り上げた。 「そんな、いきなり——あっ!!」 響が止める間もなく、奏の舌がへその穴に差し込まれる。 舌先がピアスに絡み付き、響の全身にゾクゾクとしたものが込み上げてきた。 「っ……!!」 「——響、気持ちいい?」 「……なんか……前より、感じるかも……っ」 奏の柔らかい舌が動くのに合わせ、ピアスのシャフトがグイグイと引っ張られ、甘い刺激が腹部に広がる。 前に奏に舐められた時以上に、ビリビリと脳に伝わる快楽に響は戸惑った。 「……お揃いにして、良かったね」 「え……」 「俺と同じくらい、感じてるんでしょ?」 奏の声が、振動として腹に響く。 響はたまらず、目線のすぐ先にある奏のシャツを捲ると、そこにあるへそに舌を捩じ込んだ。 「!ひゃう——」 「奏の方が弱いくせに」 「あっ。あっ……あ」 響は前よりも激しく舌でなぞると、奏のへそはひくひくと震えた。 響はその素直な反応をたまらなく愛らしく感じた。 俺に舐められて、こんなに激しくよがって感じてしまう奏のことが愛しくて仕方ない—— 「響……っ、もっと奥まで突いて……。 ……ん……。んっ、ん——」 響が奥をトントンと突くたびに、それに合わせて奏の声が漏れる。 「ん、ん——あッ!?」 突然、奏の声が一際大きくなった。 「乳首……触ったでしょ……!?」 「こっちにもピアス付けてるんだから、両方責めてあげないとと思って」 「だから、同時にされたら——あぅ」 「わっ!?」 奏は乳首まで刺激されたことで身体の力が抜けてしまい、響の上にドサリと倒れ込んだ。 突然、奏の腹に顔を押し潰された響が悶絶していると、奏は慌てて体勢を立て直した。 「……ごめん。大丈夫?」 バツの悪そうに奏が言うと、響は 「いや、俺こそごめん」 と謝った。 「お詫びに響のこと、もっと気持ち良くしてあげる」 奏はそう言って、響のズボンのジッパーを下ろしていった。 「——あ……」 先端を咥え込まれ、響は思わず声を漏らした。 上下逆さまになって覆い被さっているため、奏の表情を確認することはできないが 彫刻のように整った顔立ちの奏が、その美しさを崩してまで自分のものを咥えている姿を想像すると、与えられている刺激以上に硬くなっていく。 奏がだんだん、自分の欲求に忠実になって乱れていくのが嬉しい。 俺を想って、奏が乱れていくのを見ると、もっともっと乱してやりたくなる。 響は下腹部の快楽よりもその欲望に支配され、奏のズボンを一気に降ろすと 同じように勃っている奏のものを咥え込んだ。 「——ッ!!」 響のを咥えたまま、奏がぶるりと身体を震わせた。 まだだ。まだ足りない。 響は舌先で竿の奥まで刺激しながら、空いている左右の手で奏の乳首とへそを探し当てた。 「ふっ!んんーッ!?」 弱い三箇所を同時に責められ、奏が叫ぶような声を出す。 「ん、んあ……響……やだ……」 奏が咥えていたものを離し、響に呼びかける。 「……やめちゃ、やだ……」 少し前には、二箇所を責められるのを嫌がっていた奏が、 今は響の動きが止まるのを恐れてすらいるようだった。 「——ああ……!」 響の真上で、悲鳴のような、泣き声のような奏の喘ぎが聞こえてくる。 「もっと……続けて……んぅ!」 「……」 「もっ……と。ぁ……!」 奏の身体がぶるりと震え、響の口内に勢いよく液が撒き散らされる。 「あぁ……」 奏は息を乱して響の横に倒れ込むと、 「……また、口の中に出しちゃった……」 と霞むような声で言った。 響は液を喉の奥へ流し込んで飲み干すと、通路に置いていたリュックを開けた。 「……何、探してるの……」 まだ浅い呼吸を繰り返しながら、奏が尋ねると、響はリュックの中からコンドームの箱を取り出した。 「——持ってきてたんだ?」 「もちろん」 「もちろんって。しかも箱ごと……」 「だって、いつそういうことになってもいいように準備しとかないと焦るじゃん」 響はそう言って一袋封を切ると、奏に 「うつ伏せになって」 と言った。 「……ん」 奏は素直に体勢を変えた。 「——ひゃっ!?」 その瞬間、お尻に冷たいものを感じた奏が驚いて振り向くと、響が手に何かを持っているのが見えた。 「なに、それ」 「ローション」 「ローションって何?」 「挿入がスムーズになるんだよ。 こないだ、初めて挿れた時は痛かったろ? 次はもっと奏に負担がかからないようにしようと思って買ったんだ」 「……あれこれ持ってきたから、リュックで出てきたんだね」 「いや、宿泊旅行ならリュックくらいの荷物にはなるでしょ。 スーツケースで来た加納さんと右京よりは少ない方だよ」 「ああ、あの人たち服とかスキンケアとか色々持ってきてそうだもんね」 「っていうか、奏が少な過ぎるんだよ。 ——まあ、そんなことは置いといて…… 中の方まで塗るから、身体の力を抜いてくれる?」 「それ冷たくて嫌——ぅあっ!」 奏が抵抗する間も無く、響は指で中の方にまでローションを入れた。 「ん……、んぅ……」 「痛くない?」 「痛くは……ないけど……」 「けど?」 「前は……痛いってしか思わなかったのに……なんか変な感じ……」 指で中を解す間、奏は何度も身体の力ががくりと抜けるのを感じた。 「もう……いいから、挿れて」 少しして、奏が呟くように言った。 「響も、早く出したいでしょ」 「駄目」 響は拒否し、尚も二本の指を動かした。 「あァ……!」 「ちゃんと慣らしてからでないと、奏にまた辛い思いをさせるから」 「だから、痛くされても平気だって——」 「俺が平気じゃないんだよ」 響は穴に入れていないほうの指で、四つん這いになっている響の乳首を弄った。 「んあっ!?」 「奏だって、俺の乳首にピアス開けるの躊躇ったろ。 俺が痛そうな思いするのを見たくなかったんだろ」 「……」 「俺だって奏に痛い思いはなるべくさせたくないんだよ。 そりゃ、奏とセックスしたいけどさ、俺だけ気持ち良いならオナニーと変わらないんだから」 響が言うと、奏は大人しく響にされるがまま、中を丁寧に解されていった。 ——暫くして、響はゴムを付けると 「じゃあ、挿れるね」 と奏に囁きかけた。 ——奏が甘い声を上げるたび、耳がぞくりと粟立つ。 「……奏、仰向けになって……」 後ろからの方がスムーズに動かすことはできるが、響はどうしても奏の顔を見ていたかった。 奏が生まれたての子鹿のような脚でどうにか体勢を変えると、響は再び奥の方へ身体を沈めた。 「……っ!」 吐息を漏らしながら、奏が気持ち良くなれる場所を探して動く。 だが奏は恥ずかしがって両手で顔を覆っていたため、痛がっているのか感じているのか分からなかった。 「……もっと、顔、見せて……っ」 響は繋がったまま奏と身体をぴったり合わせ、奏に顔を近づけた。 「……ぁ。ピアスが、あッ」 腰を動かしながら身体を合わせているせいで、互いのへそピアスがカチッカチッと音を立ててぶつかる。 奏はその刺激に悶えるような声を漏らした。 「顔から手を外して、奏」 「……んァ……」 「奏、俺の目を見て」 「……んん」 ——ゆっくり、奏の顔から手が外される。 オレンジの照明の下でもはっきりとわかるほど、奏は顔を真っ赤に染めていた。 「ねえ奏……今、凄くエッチなことしてるよ、俺たち」 「……ん……」 「あそこも繋がってるし——ほら、見て? へそ同士がキスしてる」 奏は少し顎を引き、自分の身体の方を見ると、「馬鹿ァ……」と呟いた。 「お腹をぴったりくっ付けてるから気付いたんだけど……奏、また勃ってる」 「!?」 奏は目を見開くと、恥ずかしそうに顔を背けた。 すると響は奏の顎を掴んで真正面に向けさせた。 「俺がいくまで、こっち見てて」 「……ぁ」 「もう、出るから——」 響が腰の動きを早めると、奏は痛みを忘れて響の顔を凝視した。 響の頬が紅潮し、今にも逹しそうな表情を見ているだけで、先ほど果てたばかりの自分まで下腹部が熱を帯びていく。 加えてピアス同士の当たる金属音がやけに艶めかしく、欲情を掻き立てられた奏は 響が達するのと同時に、自分も再び果ててしまった。 「——はぁ……」 奏の中で果てた響は、暫く高揚感と幸福感に包まれながら倒れ込んでいたが、やがて息を整え起き上がろうとした。 その時、ねちゃ……とした感触に気づき、響は腹部を見下ろした。 腹には奏の出した液が付いており、響のピアスから奏のピアスにかけて糸を引いていた。 「……繋がってるね……」 響に囁かれ、奏も響の視線の先に目をやると、自分と響のへそが細い線で繋がっているのを目にした。 「……繋がってる」 「拭くのが惜しいね」 「拭いて。服が着れないから」 「……仕方ないなァ」 響は名残惜しそうにしつつも腹部に広がっている液を拭き取った。 服を着た後、再びカーテンを開けた響と奏は、寄り添いながら壁に持たれた。 「結構進んじゃったね、列車」 「ほんと。夜景を楽しむための列車なのに、お互いの裸ばっか見てた」 「うん。奏の裸と、感じてる顔を見れて楽しかった。良い旅だったなあ」 「なんか旅の終わりみたいな感じ出してるけど、まだ目的地にも着いてないから」 奏は響の肩にもたれると、 「こうやって、窓の外眺めててもいい?」 と尋ねた。 「いいけど——俺、体力使って疲れちゃったから、すぐ寝ちゃうかも」 「うん。それでもいいよ」 ——奏は響が座ったまま眠りに落ちた後も、ぼんやりと窓を眺め続けた。 ガラスに室内が反射して、寄り添い合う自分たちの影が見える。 「……幸せ過ぎて——怖いな」 奏は二つの影を見つめながら、ぽつりと呟いた。

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