41 / 56
寝台列車旅行⑥
「傷つけてるのとは違うっしょ!」
速水は奏の言葉を否定した。
「奏さんが早苗さんに何かしたって話じゃないっすから!
——それに早苗さんが奏さんのことを慕う気持ち、今日よくわかりました。
男の幼馴染がいて、その人がすげーイケメンでアーティストな才能を持ってるなんてなったら、絶対惚れるだろって思ってたから
本当は俺、早苗さんと奏さんが実は昔付き合ってたなんて話をされても違和感ないなって思ってたっす。
けど、早苗さんってやっぱ『母』って感じなんすよね。
奏さんの泣き声を聞いて駆けつけるなんて、母親としての愛情そのものじゃないっすか。
邪推した俺が馬鹿だったなあって反省してます」
速水が頭を掻くと、奏はこう答えた。
「いいよ。付き合ってないけど、今までも周りにそう誤解されることはよくあったから。
——マネージャーが母性的っていうのも、俺のせいでそうさせてしまったんだろうなって自覚がある。
詳しく話したくはないけど、俺は母親に虐待されて育った。
母親から正しい愛情を与えてもらえなかった俺をマネージャーは近くで見て来たから、
きっとマネージャーが俺の母親代わりになろうって感じたんだと思う。
年齢差的には姉みたいな感じに見えるけど、マネージャーにとっては俺って……弟というより、息子なんだろうな」
「……俺、早苗さんみたいな人って見たことないっす」
奏の話を聞き、深く頷いた後、速水が言った。
「若いのにしっかりしてて、真面目で、周囲に気を配れてムードメーカーで。
ソツのない人って感じなのに、酔うとめちゃくちゃ自己開示してくれるんすよね。
さっき早苗さんが泣きながら土下座してきた時、俺思いましたもん。
そんな必死に謝らなくてもいいのにって。
早苗さんって、人に甘えるのが苦手なんだろうなって。
——だから俺が早苗さんのこと、いっぱい甘やかしてやろう!って、今は益々火が付いてます!!」
「その火が消えることなく続くことを願うよ、本気で」
奏は真面目な顔で速水を見つめた。
「あんたのこと、責任感のある人だって信じて——マネージャーとの交際、応援するから」
奏が言ったところで、浴室の扉がガラリと開いた。
「お待たせ……!ちゃんと全身しっかり洗ったから、もう大丈夫!だと思ぅ……」
少し自信無さげに早苗が言った。
すると速水は立ち上がり、
「大丈夫!臭くない!」
と言って早苗を励ました。
「俺もシャワー浴びてくる。
——俺が戻るまで、起きてられる?」
「え?う、うん、さっき散々寝たから目はすっかり覚めたけど……?」
「じゃあ、戻ったらエッチしよう!」
速水が威勢良く言ったため、早苗は目を瞬かせ、口をパクパクと開けた。
「えっ……。エッ……?!」
「大丈夫!今奏さんからも交際を後押ししてもらえたから!
奏さんのお墨付きを得た今の俺は、鬼に金棒状態!!
これで安心して早苗さんのこと抱ける!」
速水は一人嬉しそうに飛び跳ねながら浴室へ入って行った。
早苗が訳の分からないまま立ちすくんでいると、響と奏は静かに立ち上がった。
「じゃあ、俺たちは邪魔にならないうちに部屋へ帰ります」
「あ、あれ?二人が同室で良かったの……?」
「はい。俺たちも向こうの部屋でいちゃついてきます」
「?……よく分からないけど、仲直りできたみたいで安心したわ!」
早苗は笑顔で喜びつつも、
「このあと……緊張するなァ。どうしよ……」
と両手を頬に添えて部屋の中を右往左往した。
「速水さんとのことは応援する。
けど、あの人がもしコンドーム持ってきてないのに抱こうとしたら、殴って止めてね」
奏は早苗にそう言い残し、響と連れ立って部屋を出た。
「——はぁ」
部屋に戻った響は、うんと伸びをした。
「掃除してる間に、汗かいちゃったなー」
「そうだね。あと、匂いも付いた」
「もっかい温泉入って来ようかな」
「いいんじゃない」
「奏も来るよね?」
響は奏の方を向いて言った。
「俺、出雲についてから、まだ奏と旅の思い出あんま作れてないんだよね。
夜くらい、一緒に旅行っぽいことしようよ」
「……わかった」
奏は、出雲大社で参拝をせず、宍道湖の夕日も見に行かなかったことに負い目を感じているらしく、素直に誘いに乗った。
二人で浴場に来ると、シャワーで汗を流した後、湯に身体を沈めた。
「——結構遅い時間になっちゃったから、他に誰もいないね」
響が言うと、奏は警戒する素振りを見せた。
「前は途中で別の人たちが入ってきたじゃん」
「そうだったね」
響は同調しつつ、湯船の中で奏の股間に触れた。
「っ!——そんなとこ触って、勃っちゃったらどう責任取ってくれるの?」
「そしたら奏がイくまで触ってあげるよ」
「馬鹿。それこそ途中で人が来たらどうするんだよ」
「人目を気にするなって言ったのは奏じゃん?」
「……っ」
奏が押し黙ると、響はそのまま股間から指をつつ……と動かし、指は奏の腹部を通って胸の先を摘んだ。
「はぁん……ッ!」
思わず奏が声を漏らすと、直後にバッと口元を押さえた。
自分が思う以上の声を上げてしまったらしく、奏は恥ずかしそうに俯く。
「誰が入って来るかも分からないのに、こんな響く場所で大胆な声出しちゃうんだ?」
「……響ってS?」
「ん?」
「こういうことばっかする人のこと、Sって呼ぶの知らない?」
「ああ、サービスのエス」
「サディストのエス!」
「だとしたら、奏はマゾヒストか」
「違うぅ。響がサディストなだけ!」
奏はムッとしたように言うと、響の乳首を摘み返した。
「ひゃっ!あははは」
響はなぜかくすぐったそうに笑い声を上げた。
「なんで笑うの?喘ぎ声出しなよ」
「いやごめん。俺、急なくすぐりに弱いんだ」
「くすぐったんじゃないんだけど」
奏は不服そうに、再び響の乳首をつねった。
「あはっ!は——ふぅ……」
響が笑い声にも喘ぎ声にも聞こえる声を出すと、奏は
「やっぱ、こっちにもピアス開けとくべきだったかな」
と呟いた。
「そしたら、そんな余裕ぶった反応、していられなくなったかも」
「そんなまさか」
「事実、こっちは前より感じるようになったんでしょ?」
奏がへそに触れると、響はビクッと身体を反らせた。
「っ、奏——この続きは、部屋でしよう……?」
「やだ。響がここで責任取るとか言い出したんじゃん」
「だから奏のことはいかせるって」
「響が先にいって」
奏がピアスの奥にある穴の底をぐりぐりと弄ると、響は「あッ!」と大きな声を漏らした。
響の下半身が反応を見せると、奏は満足したように手を離した。
「え……?」
響は頬を染めたまま、きょとんと奏を見た。
「やめるの……?」
「うん。やめて欲しかったんじゃないの?」
「こんな……勃たせといてやめるとか、卑怯だろ……」
響が恨みを込めて言うと、奏はにやりとした笑みを浮かべた。
奏のそんな顔を見たことがなかった響は、ぞくりとしたものが背中に走った。
「——俺をからかった罰だよ。
このままの身体で部屋に戻ろ」
「な……」
「続き、するから」
「……」
すっかり主導権が逆転し、響は納得いかない思いがしながらも湯船から上がった。
——部屋に戻った二人は布団に倒れ込むと、それぞれ上下反対を向いた状態で横たわった。
「——あっ」
互いのへそを舐め合っていると、響が声を漏らした。
「あ……。ふぅ……」
「響までこんな感じるようになっちゃったね」
奏は浅い息を吐き出しながら言った。
「響、おへそでイッちゃうんじゃない?」
「それは奏だろ」
「——あッ」
響がピアスを歯で挟んで引っ張ると、奏は高い声を上げて悶えた。
「ほら、こんなに腹をヒクヒクさせてるし」
「……っ」
奏が負けじと響のピアスを噛むと、響は
「ん」
と声を漏らし、身体を捩らせた。
「響、さっきより硬い」
奏は自分の頭上にあるその部分を握って言った。
「挿れる前からイきそうだね」
「だってさっきからへそばっか……。おかしくもなるよ……」
「俺がしたいこと、してくれるんでしょ?」
「言ったけど……っ」
「響も、嫌じゃないからしてるんだよね?」
「ん……」
響は自分が快楽に支配されそうになりながらも、必死で踏みとどまり、奏のへそを舌でなぞった。
「ぁ……」
「どっちが先にイかせるか、勝負する?」
「……いいね……」
響に勝負を挑まれた奏は、響のへそを舐めたまま、頭上のものを擦り始めた。
「……く……」
響は瞼をぎゅっと閉じ、果ててしまいそうになるのを堪えながら、腕を下の方におろして奏の胸のピアスを弄った。
「はぁ……ッ」
「奏、忘れてない?奏は俺より性感帯が多いんだから、それだけ不利だって」
「……最初から、自分が有利だと思って勝負を仕掛けたわけ……?」
奏は声を震わせながら言うと、身体をゆらりと起こした。
「——じゃあ、俺も響の新しい性感帯、見つけてやる」
そう宣言した奏は、響にのし掛かり、身体のあらゆる部位に舌を乗せた。
「……ははっ、やめ——くすぐったい……」
しかし、耳や首筋、脇腹や内腿、背中——と様々な場所を試してみても、響は笑うばかりで感じている様子を見せなかった。
「全然反応しないな……」
「無駄だって。俺自身、俺が感じるところなんて知らないもん」
「まだ触ってないとこ、どこだろ」
奏はふと、身体の先端にあまり触れていなかったことを思い出し、響の片手を取った。
「こことか、どう」
奏が指と指の間に舌を差し込んで舐めると、響はビクッと身体を揺らした。
その反応を見た奏が、別の指の隙間にも舌を通すと、響は再び身体を振動させた。
「——なるほどね」
奏は響のリュックからローションを抜くと、それを手のひらに取り、ハンドクリームのように自分の両手へ塗り込んだ。
そして再び、仰向けになっている響の上に乗ると、両手を響の両手と絡ませながら、ぐりぐりと指を擦り合わせた。
「……っ、んぁ……!」
響が吐息を漏らすと、奏は満足げに響を見下ろした。
「っ、さっき——奏と手を繋いで歩いた時……正直キツかった。
そんなつもりじゃないのに、ムラッとした気持ちにさせられて——」
「そっか……。確かにこれじゃ、外で手を繋ぐのは無理だね……」
「ああっ!あんまり擦られると——」
「擦られるとどうなるの?」
奏が尋ねると、
「……気持ち良くなっちゃうから、やめて……」
と響が呟いた。
「ふうん。手を握ってるだけでいっちゃいそうになるってこと?変なの」
「っ、それを言ったら奏だって……!」
響が反撃するように奏のへそを触ろうとしたが、手が滑って思うように身体を起こせなかった。
「起き上がれないの?——丁度いいから、そのままでいてよ」
「——はぅ……!」
奏は指を再び絡め直し、響の両手を床に密着させたまま、屈んで響の乳首を責めた。
「っ、く……うぅ」
「その声、喘いでる?」
「……っ」
「もう、くすぐったいって顔じゃなくなったね」
奏が舌で響の乳輪をなぞると、響はじれったそうに身体をよがらせた。
「奏……っ、もう苦しい……。俺の負けでいいから、イかせて……」
響が起き上がろうと試みると、奏は片手を離したものの、もう片方の手は響と繋いだままにした。
そして離した方の手で、奏は自分のものと響のものを重ねて握り締めた。
「!——ああッ!?」
響は、硬いものを擦り付けられながら、自分のものを上下に揺すられる初めての感覚に戸惑いながらも、口から溢れ出る声を押さえきれなくなった。
「何これ……、気持ち……ぃ」
「今ね、響のと俺の、一緒に触ってるの」
「……奏も今、気持ち良くなってるってこと……?」
「うん。一緒に出して、引き分けにしよ」
奏が擦る動きを激しくすると、響は下半身の熱がどんどん上がっていくのを実感した。
「奏、イく——!」
「ん」
耐えきれなくなった響が勢いよく放出するのと同時に、奏からも液が溢れ出る。
互いの腹には、もはやどちらのものか分からない液体がべったりと張り付いていた。
「……はは……」
果てた後、響は思わず笑いを溢した。
「訳わかんないくらい興奮した」
「何してんだろね、俺たち……」
奏も息を整えながら、額の汗を拭った。
「お腹、拭いてあげるよ」
響が枕の近くにあるティッシュボックスを取ると、
「俺も拭く」
と奏が言った。
互いの腹を拭き合っていると、響は再び噴き出した。
「何これ。なんで俺たち、自分のじゃなくて相手のを拭いてるんだろ」
「響が拭いてあげるって言い出したせい」
「分かってるけど、冷静になったら面白いことしてるよね」
響がおかしそうに笑うと、奏もつられたように笑みを浮かべた。
「……響」
「うん」
不意に名前を呼ばれ、響が視線を上げると、奏は響の唇を奪った。
「——響。好き」
「俺も。奏が好きだよ」
二人は見つめ合って微笑むと、再び唇を重ねた。
ともだちにシェアしよう!