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第13話 机の中のペンダント
アニマシオンは国王に選ばれ、王太子となった時に… 自分専用の執務室を王宮内に与えられてた。
今日は朝からアニマシオンは大忙しで…
川の氾濫 を防ぐための護岸 工事。 隣国の王族との交流で、王族を何人か受け入れるための準備。 地方で相次ぐ魔獣被害の救済と対策。 救援要請にこたえて騎士を何人送り、何日ぐらいの日程で行かせるか。 行政部から呼んだ文官たちと打ち合わせをして、いくつかの問題を決断し、公式文書に署名する。
「いくらなんでも、目が回りそうだ! 身体がいくつあっても、足りないぞ! もう少し、第二王子 に仕事を割り振ってはどうだ?」
青騎士団の入団式に出席するぐらいなら、私でなくても王族なら、誰でも良いだろう?! だが、白騎士団や黒騎士団の入団式は私が出席したし… 私の態度に差があるなどと、拗 ねられても困るしなぁ… やっぱり私が行くしかないか… あ~あ…
ぶちぶちと文句を言いながら… 青騎士団の騎士団長からの要請を受け入れ、アニマシオンは自分のスケジュール管理を任せている、補佐官サルに騎士団長からの手紙を手渡し、入団式に出席すると指示する。
「新人騎士たちにアニマシオン殿下の、寛容 さと威厳 を示される、良い機会です… 騎士たちは感動して、喜んで殿下に忠誠を誓うでしょう」
補佐官サルはいつも、似たような答えを返す。
「ふん…」
自分と同年代の王太子に、騎士たちが威厳を感じるとは思えないが? きっと新人騎士たちは心の中で、世間を知らない奴だと鼻で笑うに決まっているさ!
アニマシオンは内心で毒を吐 き、鼻を鳴らしながら… 地方の貴族に宛てて手紙を書き、封筒に入れ王太子の紋章入りの封蝋をするため、封蝋印 と蝋 を取り出そうと執務机の引き出しを開けた。
引き出しの中に、桃色の魔石がはまったペンダントを見つけ… アニマシオンは顔をしかめる。
ペンダントはただのアクセサリーではなく… カジェに渡された王宮内からなら、どこからでも秘儀 の間へと転移 出来る、魔道具だ。
最初は国王の先導で、手順を踏 んで霊廟 から秘儀の間へ入ったが… 次からはもっと簡単に、アニマシオンがカジェの元へ通えるようにと、単距離転移用の魔道具を渡されたのだ。
「参ったな…」
我ながら、なんて不用心なんだろう? いつまでも机の中に入れて放置するなんて… これも全部、公務が忙し過ぎるからいけないんだ!!
不用心と言っても、執務室の扉は、出入りした人間の身元を1人ずつチェックして記録する魔法が、組み込まれているし… 執務机の引き出しは、アニマシオン自身の魔力に反応して開く魔法陣が刻 まれ、他人に中を見られないよう、小さな宝物庫のように魔法で管理されている。
「やれやれ…」
1度目の継承の儀式を始めて… あっという間に半月も過ぎてしまったな… 正直、すぐにでもカジェの元に転移したい気分だ…
魔道具のペンダントを手に取ると、ドクンッ… とアニマシオンの下腹が疼 き熱くなる。
「獣 そのものだな……」
恐れ多くも、大賢者という貴重な宝を相手に… 私は儀式のことなど関係なく、カジェの顔を見たとたん、獣のように発情して抱いてしまいそうだ! こんな私は、私ではない! いくら相手がオメガで、“番 ”でも… この私が簡単に誘惑されそうになるなんて! あっては、ならないことだ!
国王になる資質について、嫌になるほど第二王子 と比べられてきたアニマシオンは… 強い自制心が、自分でも密かに自慢だった。
だが、夜が明けて媚薬が切れた後も、カジェを見て何度も発情しかけた自分に、自信を無くしアニマシオンは危機感を覚える。
「まだ、ダメだ… もう少し時間が欲しい…」
あまり遅いのは良くないと、カジェにも言われたのだから、こんなにのんびりとしていてはダメなことはわかっているが…
アニマシオンはペンダントを、上着の内ポケットへ入れた。
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