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第15話 父と息子の晩餐2

第二王子()のことよりも、お前自身の方はどうなのだ? そろそろいくつか、予見(よけん)を聞いたのではないのか?」  初めてニマシオンが秘儀(ひぎ)の間へ入ってから、1ヵ月近くの月日が過ぎていた。  国王はすべての儀式を、聡明な息子ならすでに終えていると、思い込み… 当然のように、継承の儀式を終えなければ得られない、未来視(さきみ)の魔法でしか知ることが出来ない、予見についてたずねた。 「そ… それは…」  ううっ… 今は1番、避けたい話題だ…!   継承の儀式を中断して放置していることを、自分でも『このままは良くないぞ』 …という自覚があるだけに、アニマシオンの顔が強張る。 「どうしたのだ、アニマシオン?! もしかして… 大きな災難にでも()う、予見でもあったか?」  それまで国王の質問に対して、ハキハキと明確に答えていたアニマシオンの態度が、急にグズグズになり…  国王は心配そうに、眉間にしわを寄せる。 「そうではありません… 公務が忙し過ぎて、儀式をすべて終えていません…」 「何だと?! ならどこまで終えたのだ?」 「その… ええっとぉ… 一度目の儀式を負えただけです」  「一度だけだと?! いくら公務が忙しくても、どちらを優先するべきかは、私が命令しなくても聡明なお前なら理解していると思っていたが… どうやらお前を過大評価していたらしいな!」  声を荒げて怒鳴ったりはしなかったが、国王が強い怒りを感じていることは… アニマシオンも厳しい口調で、すぐに理解した。 「いいえ、父上! 当然、大賢者の方が重要だと理解しております! ですから私は、貴重な大賢者となる彼を前にしても… 冷静さを保てるようになるまで、もう少し時間が必要なのです!」 「儀式を中断したのは、そんな理由でか? (あき)れたな、アニマシオン……」  ハァ―――ッ… と大きなため息をつくと、国王はてのひらで自分の顔をゴシゴシとこすった。 「自分でもどうしようもなくて! “(つがい)”を前にすると(けもの)のように発情してしまって、まさか自分が、ああなるとは… どう対処して良いのか…」 「アニマシオン、“番”の前で獣になって何が悪い?」 「は?」 「カジェは、獣のように発情するお前を、嫌がっていたのか?」 「そ… それは…」  抱いている時カジェは、私にしがみついてきたし… 食事中は瞳を輝かせて、一言も聞き逃すまいと、私の言葉に耳を(かたむ)けていた。    痛々しいほど、私に媚びを売り… 態度にも言葉にも、私と親しくなりたいという気持ちがあふれていた。 「ようやく“番”になれて、あの子は嬉しそうにしていたのではないか?」 「・・・・・・」 「カジェは地下に入った瞬間から、お前と“番” になることを運命づけられていたから… お前と会うのをずっと心待ちにしていた… カジェにそう聞かなかったか?」 「・・・っ」  10年近く地下で暮らしていると、カジェは言っていた… その間、私を待っていたのか? そんなに長い月日をカジェは、私を待っていた?!  不意にアニマシオンは…  秘儀の間で初めて会った時、恥かしそうに頬を染めて笑っていた、カジェの顔を思い出す。   「王太子が大賢者と“番”になるまで、清らかな身体を保たなければならない理由は… 未来視の魔法を使うために、誰もいない地下に閉じ込められる(あわ)れな存在へ、王家が誠意と敬意を示すためだからだ…」 「誠意と敬意…」 「これからも、お前がこのような状態を続けるのなら… たった一人の貴重な大賢者が心を病まないよう、くれぐれも気をつけることだ!」    ジロリとアニマシオンをにらみ、国王は退室する。 「・・・っ!」  心を病む…?!  アニマシオンはハッ… と息をのむ。  

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