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第2話
「…き、君は…なんでこんなところにいるの?」
「……分からない、父に着いて来てて一緒に捕まったみたい」
恐る恐る質問するとまともな答えが返ってきて嬉しくなった。
アンジュの言葉をまともに聞いてくれるのは世話係のメイドくらいだった。
一緒に捕まったわりには拘束具の数が他の凶悪犯と比べて異常だった。
でもアンジュは自分に笑いかけてくれた少年を信じたくて牢屋に近付く。
もっともっと知りたい、アンジュの生まれて初めての好奇心だった。
「君の名前は?おっ…私は、アンジュ」
「ふふっ、話しやすい話し方でいいよ、俺の名前はヨシュア…よろしくねアンジュ」
「よ、よろしくね…ヨシュアくん」
初めての同年代の友達が出来たみたいで嬉しかった。
…それがアンジュしか友達だと思っていなくてもアンジュはこの時が嬉しかった。
持ってきたトレイの食事を見る。
明らかな残飯で、嫌われているアンジュでさえ違うものを作るのは面倒だと使用人と同じ一般平民の食事だ…兄達と同じ食事は食べた事がないから、今日の宴は密かに楽しみにしていた…結果はこの通りだが…
ヨシュアに残飯を食べさせるのは心苦しくなった。
…悪い事してないのに、ただ一緒に捕まっただけなのに…
戸惑うアンジュを見てヨシュアは思いつき腕の鎖を少し揺らした。
ジャラジャラと音がしてアンジュがヨシュアを見た。
「アンジュ、お腹すいたね」
「で、でも…」
「俺、両手塞がってて…食べさせてくれる?」
ヨシュアにそう言われて食べさせないわけにもいかず、ヨシュアに少し待つように言い走り出した。
向かったのは地下牢の入り口にある無人の看守室だった。
元々ここにはちゃんと看守がいたが、囚人達の声を毎日聞いてるうちに精神が可笑しくなり辞めて誰も行きたがらないので地下牢の扉を硬くする事により今の看守室は無人だった。
その事を知らないアンジュは看守室に牢屋を開ける鍵があるだろうと思い看守室の扉を開けていろいろ探す。
すると不用心に机の上に鍵の束が置いてあった。
それを掴み看守室を出る。
ジャラジャラと鍵の音をさせて走ると囚人達は目の色を変えてさっきより強く鉄格子を叩き人を殺す時のような殺意の目を向けられる。
アンジュは転けて、膝を擦りむいて早くヨシュアのところに行きたいと泣きながら走った。
ヨシュアの顔を見てホッとしながら鍵を一つ一つ牢屋の錠前に差し込む。
半分くらい試したところで、鍵を回すとカチッと開いた音がした。
錠前を外し食事を持ち中に入る。
間近で見るヨシュアにしばらく見惚れていた。
「アンジュ?」
「ごっ、ごめんっ」
ヨシュアはどうしたのか首を傾げてアンジュは恥ずかしくなり赤くなった顔を隠すように俯き、ヨシュアの腕の拘束具に手を伸ばす。
指で鍵穴に触れると手首の裏側にあり、もしヨシュアが鍵を開けようとしても無理な場所にあった。
鍵を持ち鍵穴に差し込もうとしたらヨシュアは驚いた顔をしていた。
「ダメだアンジュ!」
「…っえ?」
ヨシュアの強い口調に目を丸くした。
すぐにヨシュアは優しい顔をして「怒鳴ってごめんね」と謝っていた。
アンジュは手を引っ込める。
「アンジュ、今ここで君が俺の拘束具を外したら君は怒られてしまうよ…だからやっちゃダメ」
「…う、でも…」
「アンジュ…俺に食べさせるの、嫌?」
ヨシュアが悲しい顔をするから首を横に振った。
嫌なわけじゃないが、ヨシュアがずっと拘束されていて腕が痛そうだったから外そうと思っただけで、ヨシュアが悲しむならもうやらない事にした。
お椀を持ちヨシュアの口に運ぶ。
美味しくないのに美味しそうに食べるヨシュアが不思議だった。
…アンジュに優しくしてくれるヨシュアにも…
アンジュは心がぽかぽかする不思議な気持ちになった。
………
あれからアンジュはヨシュアに毎日会いに行っていた。
残飯を食べさせられないからこっそり夜に厨房に忍び込み、ヨシュアのためにおにぎりを握った。
ヨシュアに食事を運ぶと言えば地下牢に簡単に入れてもらえた。
何故楽しそうなのか騎士達は気持ち悪いものを見るような顔をしていた。
アンジュを見つけるとヨシュアはニコッと笑った。
他人行儀が嫌だとヨシュアが言うからーくんー付けはすぐにやめた。
「ヨシュア!今日ね、漬物も持ってきたよ!城の畑で採れた美味しいキュウリだよ!」
「ありがとう」
初めて包丁を握り漬物を切ったから、よく切れておらずキュウリが全部繋がっていた。
落ち込むアンジュにヨシュアは「大丈夫だよ」と慰めていた。
そしてヨシュアはアンジュの首元に白いものが見えた。
「アンジュ、なんか首に白いのが…」
「なっ、何でもないよ!はい、あーん」
アンジュは誤魔化すようにおにぎりをヨシュアに差し出した。
今朝アンジュはまたウォーレンに虐められていた。
理由はウォーレンがなにか嫌な事があったから八つ当たりで死なない程度に首を締められた。
痕が残ってしまい、ヨシュアに気付かれたら心配かけちゃうと湿布を貼ったがバレてしまった。
何とかその場は誤魔化せたが、ヨシュアに見られアンジュは冷や汗をかいた。
「………アンジュ、なにかあったら何でも話して、聞く事くらいは出来るから」
本当はヨシュアに全て話して楽になりたかった。
でも、余計な心配を掛けたくなくてアンジュは「大丈夫だよ」と笑った。
ヨシュアと話してからアンジュは笑顔が増えた。
失いたくなかった、この楽しい日々を…
………
「ふっ、ふぇっ」
「アンジュ、どうしたの?」
今日はまん丸な満月の夜だった。
毎回満月の夜は悲しくなり涙が止まらなくなる。
アンジュは部屋に一人でいたくなくてヨシュアに会いにきた。
ヨシュアはアンジュが泣いていて自分も心が締め付けられる気持ちだった。
自分の両手が自由なら、思いっきり抱きしめて頭を撫でてあげるのにと考えて手を握りしめる。
アンジュはヨシュアを見て声を振り絞った。
ヨシュアはアンジュの涙が宝石のようにキラキラして見えた。
「あ、あのね…分からない…分からないけど、まん丸の月の日は怖くて悲しい気持ちになるの」
「…トラウマか、アンジュ…おいで」
ヨシュアはアンジュを呼び、ヨシュアの近くまで近付く。
ヨシュアの顔を見て少し悲しい気持ちが和らいだ。
自然とヨシュアに手を伸ばした。
「…ギュッてしていいよ」
ヨシュアに許可をもらいアンジュはヨシュアに抱きついた。
胸元に耳をくっ付けると心臓の音で落ち着くのを感じた。
ヨシュアはアンジュの額に口付けた。
アンジュは驚いてヨシュアを見た。
ヨシュアは美しい笑みを浮かべアンジュを見ていた。
「涙が止まるおまじないだよ、効いた?」
「う、ん…」
アンジュはもう悲しくなかった。
きっとヨシュアは魔法使いなのだと思った、じゃなかったらこんなにあっさりと悲しみがなくなるわけがない。
ヨシュアがアンジュの側にいるからもう一人じゃないと悲しみが薄れていったのだがアンジュは目を輝かせてヨシュアを見た。
ヨシュアと共に牢屋の小窓から見える満月を眺める。
流れ星が流れたわけじゃないが、アンジュは必死にお願いをした。
ずっとずっと、一緒にいられる…アンジュはそう信じて疑わなかった。
そして、不穏な動きは10年後起きた。
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