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週明けの月曜日、水無瀬は体調不良の体でまた学校を休んだ。 「一年のオメガが言い寄った」 「色仕掛けで無理やりラットに」  土日を挟んで、噂は尾ひれをつけ、学内を執拗に徘徊していた。朝の礼拝でも移動教室でも陰口を叩かれて皐樹は気が滅入った。 (お父さんには心配かけたくない)  週末、父親のカオルがデマについて触れてくることはなかったが、いつ耳に入るか。 「ヒートになったんなら学校休めよ、迷惑なんだよ」  昼休みになっても食事をとる気になれずに皐樹は教室を出た。アルファに遠巻きにされ、ベータには好奇の目で見られる。同じオメガ性の生徒は素知らぬ顔だ。背中に投げつけられる陰口に逐一反応するのも億劫で、人気のないところへ自然と足が向かった。 (そうだ、あそこなら)  校舎を出、晴れ渡る空の下、普段から学内を散策している皐樹が目指した先は第二体育館の裏だった。  キャンパスの端に位置し、隣接する園舎の壁、背の高いコンクリートの外周塀で区切られたスペースには草木が生い茂っていた。体育館に数ヶ所設けられた通用口の前で皐樹は足を止める。モルタルの外階段に腰かけ、後頭部から扉にもたれた。  淡いため息が零れた。  園舎中に響き渡る、あどけない笑い声を聞きながら目を閉じる。 (あのときと同じだ)  オメガが非を問われる。疑われる。当たり前のように。 (学園の人達にとって水無瀬さんはアルファだ)  学園の方針は階層を深めず、でも、結局は……。 (教室に戻りたくないな)  込み上げてきた自分の本音に情けなくなった。そこへ、いきなり。 「お昼寝か、一匹狼ちゃん」  皐樹は口から心臓が飛び出るかと思った。 「それとも誰かと待ち合わせか?」  瞼を持ち上げれば、すぐ目の前に桐矢の鋭い双眸が迫っていて、さらに驚かされた。 「な、何やって、いつの間に、こんな近くに」 「春の陽気に酔っ払ったみたいにフラフラ歩いてるのを見かけて、面白いから、こっそりついてきた」  桐矢は屈んで皐樹を覗き込んでいた。モッズコートのポケットに突っ込んでいた缶コーヒーを取り出すと、上気した頬に押しつけた。 「やる」 「冷たい。いらない。どこかに行ってくれ」 「ここは言わずと知れた隣慈のデートスポットだぞ。入学早々、昼休みに誰かと逢瀬なんて不真面目な新入生だな」 (また馬鹿にされてる)  長身の桐矢が窮屈そうに隣に腰を下ろし、不貞腐れた皐樹は反対側にこれみよがしに寄った。 「何だ。俺を警戒してるのか?」 「アンタが無駄にでかくて狭いんだ」

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