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 桐矢が話していたことは本当だった。  幼稚園から高校まで併設されているキャンパスにおいて、第二体育館裏は貴重な死角と言ってもよかった。 「言っただろ、デートスポットだって」  足音の主はアルファとオメガの生徒だった。体育館裏手に回り込んですぐの通用口前で、昼休みの学内デートにしては、なかなか過激な行為に二人は及んだ。 「中断させるのも悪い、俺達は大人しくしておこう」  園舎に最も近い通用口前にいる皐樹と桐矢は、数メートル離れた場所で束の間の逢瀬に没頭しているカップルに気づかれないよう、柱の出っ張りの陰に身を潜めていた。 「それとも、もしかしたら。俺達に気づいた上での、そういうプレイなのかもな」  ずっと桐矢に口を塞がれている皐樹は切れ長な目を見開かせた。耳朶に触れる低い囁き。背中にぴたりと重なる彼の体温。  不本意な密着に胸がやたら騒いだ。 (学校で、するなんて、信じられない)  落胆、呆れ果てながらも、初めて間近にした愛の交歓の現場に皐樹は……。 「――もう終わりか」  過激な逢瀬は十分程度で終了した。 「あの二人、付き合い始めたのは最近か。昼休みにああも盛り上がるくらいだ」  カップルが去り、平然としている桐矢は皐樹に耳打ちした。 「そういう場所なんだ、この第二裏は。いくら探検好きだとしても、あまり一人で入り浸るなよ?」  低めの笑い声の振動が鼓膜にまで届いた。背筋がゾクリと震え、皐樹は彼の鳩尾に肘鉄を一発食らわせた。 「ッ……不意打ちは卑怯だぞ、皐樹」 「もう……いなくなったんだろ、いい加減、早く離れろ、俺にくっつくな」  自分よりも大きな手を口元から乱暴に退かし、皐樹は涙目で桐矢を睨んだ。 「ここからすぐに離れていれば……あんなの、聞かずに済んだ」 「セックスの音色は一匹狼ちゃんのお耳にはまだ早かったか、それは悪いことをした」  まだ真後ろにいる桐矢に皐樹は苛立った。早く離れたかった。戻りたくなかったはずの教室へ、この上級生の懐から今すぐにでも避難したかった。 「もしかして()ったのか」  ひどく生々しい性に初めて接して独りでに興奮した下半身。いけ好かない桐矢に言い当てられて皐樹は死にたくなった。  前屈みになって、羞恥心で顔を真っ赤にしていたら、彼は板についた片笑みを浮かべた。 「そのまま教室に戻すのも先輩として気が引ける」  離れるどころか、さっきよりも密着してきた桐矢に熱もつ場所を撫でられて、ぎょっとした。 「これだと一目でバレるな。ただでさえ注目の的になってるんだ、処理しておくに越したことはない」 「何、言って」 「俺が手伝ってやる」  ぐ、と服の上から握られる。屹立しつつあった熱源を刺激されて皐樹は首を左右にブンブン振った。 「ふざけるな! 変態! やめろ!」  喚いていたら、また、口を塞がれた。 「あんまり騒いだらヒヨコの群れが来る。黄色の帽子かぶったヒナ共に、こんな状況でピヨピヨ群がられていいのか?」  最悪だ。

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