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 嫌がる皐樹に桐矢はさらにのしかかってきた。通用口のドアと上背ある自分の体で下級生を挟み込むと、今度は過剰に慈悲深い掌でじっくり撫で上げてきた。 「う」  桐矢を振り払えずにいた皐樹は呻いた。めげずに何回か肘鉄を食らわせたが、今度はビクともしない。攻撃がくるとわかっていて注意深く構えているのだろう。  性感帯の扱いに長けた利き手は下腹部で蠢き続ける。  まだ誰の温もりも知らない純潔のペニスをグレンチェック柄のズボン越しに包み込み、れっきとした愛撫を綴った。 「うう、ぅ」  股座に潜り込む桐矢の手を引き剥がそうと、必死になって腕を掴む皐樹の五指が、モッズコートに深い皺を刻んだ。  嫌なのに興奮が増していく。  不慣れな刺激に下半身が暴走する。 「ん、ぅ」  顔の半分を覆う掌の下で吐息を洩らし、こもる微熱に唇が湿った。 (どうして、こんなことに)  初心な体は桐矢の愛撫を素直に受け入れ、発熱に拍車がかかった。理性がまだ余裕で残っている頭は混乱する。片手で器用にベルトを外されると底が知れない懐で皐樹は身悶えた。 「もう嫌だ、今すぐやめろッ」  口元から手が遠ざかり、すかさず桐矢を非難した。 「こんなのひどすぎる、頭おかしいのか⁉」 「お前の方こそ、おかしいんじゃないのか」  ファスナーを全開にされたかと思えば、ボクサーパンツ越しに、握り込まれた。 「こんな状態で神聖な授業に出るつもりか?」  ズボンを隔てていたときよりも露骨に強まった刺激に皐樹は深々と項垂れた。 「嫌だ……」 「イヤイヤ言う割に……」 「っ……んん」 「俺の手に応えて硬くなってる」  皐樹にとっては屈辱以外の何物でもなかった。彼に触れられて、すんなり感じている自分の下半身さえ憎らしくなった。 「俺に触るな」  振り返り、すぐそこにあった鋭い目を涙ながらに睨みつけた。 「強情な奴」  そう言い返した桐矢は、自分の腕を掴んでいた皐樹の手を容易く引き剥がした。そのままボクサーパンツの正面へ。皐樹自身に熱もつ昂ぶりを触らせた。 「そんなに俺に触られるのが嫌なら自分で処理しろ」  骨張った手を自分の手で覆い尽くし、指に指を絡め、上下に撫でさせた。躊躇する皐樹の手を簡単に操作し、仕舞いにはボクサーパンツの内側で握らせ、しごかせた。 「オメガにしてはいい反応だな。使い道がありそうだ」 「やめろ、耳元で喋るな、笑うな、くすぐったいんだ……ッ」  予鈴が鳴り渡る。昼休みの終了が近づいていた。 「それは感じてるってことなんじゃないのか……?」  体育館裏で人知れず、自慰とも愛撫とも区別のつかないやり方で皐樹は絶頂へと導かれていく。 「そこ、嫌だ……」 「ここか?」  外気に取り出された熱源。控え目に色づく先端を握らされた。ゆっくりと、でも強めにしごくようコントロールされて内腿が粟立った。 「ッ……嫌だって、言っただろ……!」 「しー……」  桐矢は身を捩じらせる皐樹の耳元目掛け、わざとらしく息を吹きかけた。先走りでうっすら湿り出した天辺を自分の手で握り締める。一際濡れた鈴口に親指を添え、やんわりと、繰り返し弾いた。 「あ」  もう触るなとも拒めずに皐樹は屈した。早く終わってほしいと、抵抗を投げ出し、桐矢に嫌々身を委ねた。 「ぁ……もう……!」  間もなくして放たれた絶頂の雫。  他人の手で初めて射精に至った。 「はぁ……ッ……ぁ……」  咄嗟にドアに縋りつく。ズボンや下着が引っ掛かる腰、丸めた背中をビクビクと震わせて、熱いため息を連ねた。 (こんなの不謹慎極まりない)  呼吸が落ち着き、興奮が冷めてくると、皐樹は悔し涙をボロリと流した。 「俺の前から早くいなくなれ」  この上なく無防備だった一瞬を目の当たりにされ、今は顔を合わせたくなく、俯いたまま桐矢に願った。 「泣いてるのか。可愛いな」  皐樹はカッとなった。顔を合わせないつもりが、我慢できなくなり、あんまりな上級生を腹いせに目一杯睨みつけようとした。  上を向いたらキスされた。  罵倒する準備が万全だった唇に。 「ごちそうさま」  乱れたズボンのポケットにポケットティッシュを突っ込むと、桐矢は、やっと皐樹の元から離れていった。  ファーストキスを三秒間でさらりと奪われた下級生は、五限開始のチャイムが鳴り渡っても、体育館裏で一人放心していた。

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