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 青い空と白い雲のコントラストが清々しい晴天。鬱蒼と生い茂る木々。頬を吹き抜けていく爽やかな山風。  四月末、絶好の行楽日和に隣慈中学校・高等学校の歓迎遠足は実施された。  中学部はテーマパーク、高等部は自然公園と行き先が分かれている。学園内に停められた貸切バスに乗って異なる目的地へ。高速道路を利用して郊外まで各自移動した。  バンガローが並ぶキャンプ場、フィールドアスレチックや多目的エリアなど、様々な体験ができる自然公園の中心には人工湖があった。吊り橋がかけられ、辺り一帯を囲む青々とした森林と凪いだ湖の景観が一望できる。園内でも人気のスポットだった。  芝生広場で滞りなくレクリエーションが催され、予定通り、正午に自由時間に入った。 「桐矢君、私達と回らない?」 「吊り橋で一緒に写真撮りたいの」  一際目立つ華やかな集団がいた。今日は私服可であり、センスのいいスポーツファッションに身を包んだ上級生の女子グループだ。  アルファであるのが一目瞭然であるキラキラした輪の中心には桐矢がいた。  いつものモッズコートにシンプルなトレーナー、ジョガーパンツ、レザースニーカーを履いた彼は今日も手ぶらで彼女達と移動を始めた。  学校指定のジャージにリュックを背負った皐樹は、興味があった吊り橋からの眺望を断念した。 (水無瀬さんは来ていないみたいだ)  大事を取って欠席したのか。気になって、学年が入り乱れている芝生広場をぐるりと見渡してみた。 「誰か吊り橋に行って桐矢のこと突き落としてきてくれる?」  ある男子グループが皐樹の目に留まった。ハイブランドのスポーツウェアに、それなりに整った容姿、特に素行が悪そうには見えないアルファの集まりだ。しかし物騒な冗談を言い合い、笑っている姿は、見ていてあまり気分のいいものではなかった。 (ひょっとして桐矢を敵視している人達か?)  グループの一人と目が合った。両隣にいた上級生も皐樹に視線を投げつけ、何かを言い合い、皆で近づいてこようとする。 「皐樹、一緒に回ろう?」  彼等が到着するよりも先に刀志朗が皐樹の元へ駆けつけた。 「ッ……刀志朗、びっくりするだろ」  いきなり背後から抱きつかれて皐樹は驚いた。キャップを被り、サイズが大きめのパーカーにショートパンツ、レギンスにカラフルなランニングシューズを合わせた刀志朗は破顔した。 「今日はジャージで来たんだね。皐樹の私服、見てみたかったんだけどな。今度、休みの日にどこか遊びにいこう?」 「重たい、刀志朗……あ」  顔を上げれば件のグループは他の生徒に紛れて消えていた。 「駄目だよ、皐樹、喧嘩なんか売ったら」  皐樹は面食らう。背中から離れた刀志朗と向かい合った。 「さっきの人達が例の上級生か?」 「うん。安藤(あんどう)君達、兄さんのことは苦手なんだ。だから僕と仲がいいってアピールすれば、さ。兄さんのことが頭を過ぎって、ちょっかい出してこないんじゃないかなって」  皐樹の胸はじんわり温かくなった。風に遊ばれて視界にちらつく髪を耳元で押さえ、自然な笑みを零した。 「刀志朗には気にかけてもらってばかりだ。いつもありがとう」  刀志朗はキャップを目深に被り直した。いつになく小さい声で「遊びにいこうって誘ったのは本音だよ」と、告げた。

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