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6-1-終業式

 雑念を払うため勉強に打ち込んだおかげか、皐樹は期末テストで全科目が平均点以上という好成績を収めた。  梅雨明けとほぼ同時に迎えた一学期最終日。中高合同の終業式が講堂で執り行われた後、大掃除の時間に入った。 「皐樹、ゴミ出しか」  ゴミ捨て当番で外へ向かっていた皐樹は、途中、桐矢にバッタリ会った。階段を上っていたはずの上級生は、下級生が両手に提げていたゴミ袋の一つを奪うと、共に階段を下りていった。 「一人で持っていける」 「早く戻ったら、背が高いからって窓拭きさせられる。面倒くさい」 「教師を志す人間にあるまじき発言だぞ」  七年前の事件について皐樹は胸に仕舞い込んでいた。  関わった者達の心を刺激しないように。桐矢の背で眠りにつく傷痕が目覚めないように。  二見の話題は特に出ていない。もしかしたら、すでに当事者同士で話し合ったのかもしれない。何故、五年前に自分を襲おうとした二見と水無瀬は会っていたのか。納得のいく理由や事情を桐矢が知って、疑問点は解消され、気にする必要がなくなった……。 (そうだといいんだが)  長袖を腕捲りした桐矢と並んで生徒用玄関から外へ、キャンパスの片隅に設置されているゴミステーションまでゴミを運んだ。蝉の声が騒々しい。真っ青な空では一筋の飛行機雲が消えかけていた。 「どこに行くんだ、桐矢?」  校舎へ戻り、階段を上ろうとしたら、いきなり桐矢に強めに肩を抱かれた。そのまま掃除中の玄関ホールを突っ切って、角を曲がり、突き当たりにある非常口の前まで連れて行かれた。  屈んだ桐矢にキスされて皐樹は瞠目した。 「ッ……駄目だ、すぐそこに人が――……」  嫌がる唇を傲慢な唇は逃がさなかった。的確に捕らえ、離さず、優しく虐げた。  皐樹はつい声を洩らしてしまう。近くで複数の人の気配がする中、桐矢にいいように口づけられて腰の辺りをゾクゾクさせた。 「ッ」  制服の下で粟立つ腰をなぞられた。ゆっくりとした手つきに切れ長な目は堪えきれない涙に満ちる。もう限界だ。皐樹がそう危ぶんでいたら、桐矢はいともあっさりとキスを終わらせた。 「小腹が空いてたんだ。ごちそうさま」  両目を潤ませたオメガは飄々としているアルファに非難の眼差しを投げつけた。 「俺は非常食じゃない。大体、人に見られたらどうするんだ」 「見られて何か困ることでもあるか?」  閉口した皐樹に藪から棒に「今、携帯持ってるか」と、桐矢は尋ねた。 「……携帯はバッグの中だ」  返事を聞くなり彼は自分の携帯の番号を復唱した。 「暗記しろ。後でかけてこい。今夜の内に電話が来なかったら、明日、家に押しかけてカオルの前でキスしてやる」  毎度ながら一方的な物言いに腹が立ち、桐矢の胸倉を両手で掴んだ。 「珍しい。お前からキスしてくれるのか」  ついていけない。皐樹は勢いよく顔を背け、その場を後にした。 「かけてこいよ、皐樹」  置き去りにした桐矢の顔も見ずに「もう忘れた」と呟き、階段を上って一年生のフロアへ。 「皐樹、連絡先教えてくれる?」  自分の教室前で、片手にモップ、片手に携帯を携えた刀志朗に出迎えられた。 「夏休み中、連絡とれるようにしておきたいんだ」  メールアプリをインストールしていない皐樹は、待ち構えていた同級生に携帯の電話番号を伝えた。 「今、かけてもいい? 後で僕の番号も登録しておいてくれる?」  「わかった」 「あれ……皐樹、顔が赤いね。ゴミ捨てで日焼けしちゃったのかな」  皐樹は押し黙った。ほんの短い間に刻みつけられた微熱の余韻に唇が疼く。日に日に狩人に捕らわれていく我が身に失望した。

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