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9-2
「わ……わからな……」
「オスとして、それともメスとして、どっちがいい」
経験豊富な桐矢に主導権を握られるのは致し方ない。彼以外の人肌を知らない皐樹自身、納得していた。だが、時に遣り切れなくなって、むしゃくしゃすることもあった。
「それなら! どっちでもいかせてみればいいだろッ、この傲慢スケべ!」
桐矢は吹き出した。何よりもそそられる仏頂面に「ご大層な注文だな」と、満更でもなさそうに口角を吊り上げた。
肌触りのいい羽毛布団をずらし、左右に開かれていた皐樹の両足の間に割って入ると、笑んだ口元のままオメガのペニスにキスを。
「ぁ」
脈打つ膨張を欲深げに頬張り、同時に、後孔に二本の指をまた沈めた。控え目に色づくペニスに舌を絡ませ、頭を上下させ、際どい刺激を刻みつける。粘膜のせめぎ合う尻奥に、優しく、執拗に、小刻みな振動を送り込む。
「だ、め……もう……ッ……ッ」
皐樹は薄い胸を反らした。咄嗟に桐矢の頭に片手を添え、もう片方の手で口元を覆う。為す術もなく達した。我が身に居座る節くれ立つ指を締めつけ、彼の喉奥に白濁の雫を放った。
「はっ……ぁ……はぁ……っ」
外側と内側を同時に攻められて与えられた恍惚に意識が霞む。大きな枕に片頬を押し当て、桐矢がベッドから去っても、開いた両足もそのままに荒い呼吸を繰り返した。
桐矢はすぐに戻ってきた。
最初の絶頂に身も心も痺れさせている皐樹に、裸身になった彼は覆い被さった。
「……あ……」
内腿に触れるアルファの強靭な昂ぶりにオメガの意識は否応なしに鮮明になる。忘れていた緊張がぶり返し、下半身を強張らせた。
これまでに見たり、触れたりしたことはあった。しかし挿入を意識すると迫力が倍増して皐樹はゴクリと喉を鳴らした。
「と、桐矢」
「何だ」
「本当に今から……するのか?」
「する」
はち切れんばかりに育った肉杭 の頂きで後孔をなぞられて、何とも言えない感覚に皐樹は首を竦めた。
「おあずけプレイはもう飽きた」
ぐ、と押しつけられた。指で拡げられ、愛液で温むオメガの入り口は、尻込みする皐樹の心とは裏腹にアルファの訪問を悦んだ。人工の薄膜に覆われた桐矢のペニスをゆっくりと呑み込んでいく。
「あ……待って……」
「だから。もう待てない」
「んっ……ほんとに、ナカに……」
「ああ。お前のナカに来た……やっと」
初めて接した裸身の熱気を浴び、雄々しげに滾る肉杭の息遣いを腹底に感じて、皐樹はぎゅっと目を閉じた。
桐矢は途中まで進めたところで止まると、馴染ませるため、何回か前後に腰を揺らめかせた。指よりも圧倒的に存在感の増すペニスで尻膣を抉じ開け、浅いところを擦り上げる。皐樹は一段と瞼を力ませた。後孔内で肉杭が動く度に危うげな快感が生じて、じわりと汗をかいた。
「皐樹、痛くないか」
「っ……もう、嫌だ……」
「痛いのか?」
皐樹は顔の上に片腕を翳し、途切れ途切れに答えた。
「そこまで、痛いわけじゃない、けど……」
頻りに身を捩じらせる皐樹を見下ろし、桐矢は、やおら上体を起こした。我が身を招き入れている姿を視界でも堪能し、両膝を掴んで固定すると、厚い腰を緩やかに前後させた。
「あん……っ」
自分のものとは思えない嬌声が溢れ出、皐樹は羞恥で逆上せそうになった。
「も……もう抜いて、桐矢」
「無理だ」
「な……んか、大きくなってる……縮めてくれ……」
「それこそ無理だ」
想像以上の締めつけに迎えられ、搾り上げられるような圧に桐矢は低く息を吐く。今度は皐樹の腰を掴むと、やや持ち上げるようにして緩々とした律動を再開した。
「ぁっ……やだっ……あぁっ……」
律動に合わせて声が洩れてしまう。涙目の皐樹は腕越しに恨みがましそうに桐矢を睨んだ。
「初めてなのに気持ちいいなんて……最悪だ」
「痛い方がよかったのか。お前、そういう趣向の持ち主だったか?」
「違う!」
大声を上げたら、より強くナカで擦れて皐樹は閉口した。羽毛布団は跳ね除けられ、落ち着いていたはずの自分自身が頭を擡げているのが視界に入ると、口をへの字に結んだ。
「どれだけ上手なんだ、アンタは……慣れてるにも程がある……今まで何人と……この傲慢スケべ……」
「こんなときにヤキモチか」
バスローブが纏わりつく体をほんのり紅潮させ、歯を食い縛って睨んでくる皐樹に、桐矢は再び覆い被さった。
こんなときでも負けん気の強い唇に唇を重ね、シーツの上で悶絶していた指に指を絡め、腰を落とし込む。奥へやってきたアルファの肉杭にオメガは打ち震えた。
「桐矢……っ……ん、む……っ」
律動の速度が著しく上がった。さり気なく割れた桐矢の腹筋にペニスがすれて、むず痒い摩擦が起こる。尻膣の最奥に頂きを打ちつけられると下腹部全体が狂的に熱せられた。
先程までの緩やかなテンポとは打って変わり、熱烈なピストンでナカを掻き乱されて、反り返った皐樹の爪先は何回も虚空を蹴った。
「やめっ……んんっ……んっ……!」
白を基調とした明るい部屋に濃厚な営みの音色が一頻り紡がれる。
「一年我慢していた分、この一泊で叩き込むからな、覚悟しろよ」
透明な糸を互いの唇に連ねたまま桐矢は囁いた。色鮮やかな髪の先が汗ばむ頬に滴って、狩人にして獣性じみた鋭さを匂わせる目で見つめられて、皐樹はさめざめと泣くように濡れた。
「……俺、熱い、桐矢」
「ああ。俺もだ」
桐矢は繋いでいた手を離した。うっすら艶めく首筋に顔を埋め、厚腰を波打たせる。悶々と収縮する膣壁の狭間で我が身をしごかせ、薄膜越しの熱壺に一心に溺れた。
まるで身も心も燃え尽きて生まれ変わりそうな交わりに皐樹は屈しかけた。
「ぁっ、ぁっ……はぁっ……」
桐矢に巧みに追い上げられ、広い背中に両手を回し、指先が掬い上げた違和感に気がつく。
(これって)
最愛なるオメガの居心地に陶然と溺れながらも、急に両手を引っ込めた不自然な仕草は桐矢の目に留まった。
「皐樹、どうした……一匹狼ちゃんのくせに爪を立てるの、遠慮してるのか」
傷痕の感触を初めて知って、恍惚と理性の間で複雑な境地に足をとられそうになっている皐樹に彼は笑いかけた。
「お前の爪痕は特別枠だ、歓迎する」
(こんなの、敵わない)
皐樹は何もかも桐矢に捧げたくなった。容赦なく幾度となく心臓を射止めていくアルファを悔し紛れに抱きしめた。
運命の番なのか、自分にはわからない。ただ、これはヒートではなく、恋い焦がれる桐矢に腹立たしいくらい感じている。それだけは確かなことだった。
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