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第8話
アキの腕の中はとても暖かくて、僕がこの世界に居たいと思わせるには十分だった。
「どうしたの?こんなに濡れて…風邪引くよ?
うちに入ろう」
そう優しく声をかけてくれたアキは、寒さで震える手を握り、じっと僕の瞳を見つめた。
アキと居ると安心する……
さっきまでの不安が嘘みたいに、感情が一気に流れ込んできた。
……そうだ、僕は悲しかったんだ。
そう実感すると涙が止まらなくなり、もう自分ではどうする事もできなかった。
アキは何も聞かず、僕の手を取って、温かいアキの家の中へ連れて行ってくれた。
……
それからは、頭の中に靄がかかったみたいに、
あまりよく覚えていない。
アキとアキの両親に連れられて病院へ行き、その後は葬式に行ったんだと思う。全ての段取りはアキの両親が行ってくれた。
僕は、ただそこに居るだけの人形だった……
僕の中にぽっかり空いた穴は、
もう一生埋まる事はないだろう………
それでも無情に過ぎ去る時間。
親戚が居なかった僕には、引き取り手が居なかった。アキの両親が僕を引き取ると言ってくれたが、そこまで甘えるわけにはいかない。
僕は、一人暮らしをして自立する事を決めた。
高校はアキと同じ私立を受験する予定だったが、金銭的に余裕がなく近くの公立を受験することに。
当面のお金は、両親の財産で暮らしていけるので、暫くは受験に専念した。
その間、アキとは……あまり会わなくなった。
毎日電話をくれるが、僕はアキにこれ以上迷惑をかけたけなかった。
……ずっと対等でいたかった。
"可哀想だから"が理由で一緒に居てほしくない。
……アキだけには本当の僕を見てほしかった。
一人暮らしのために、僕が安いアパートへ引っ越してアキと家が遠くなったこともあり、顔を合わす機会も自然と減った。
僕もアキも受験に集中しなければならなかった。
毎日忙しなく、
あっという間に時が過ぎていった……
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