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第9話

…… 季節は春になった。 僕は無事に第一志望だった公立高校に合格。 アキも第一志望の私立高校に合格したと、担任が話しているのを盗み聞きした。 卒業式に久しぶりにアキと顔を合わしたが、相変わらずアキはアキで。あの時から何も変わらずそこにアキは居た。 ………変わったのは僕だけだ。 アキが元気な事を確かめて、帰ろうとしたところ「ナツ!」とアキに声を掛けられた。 咄嗟に逃げようとした僕の手を掴み、アキは話し始めた。 「アキ、元気だった?……ちょっと痩せた?ちゃんと食べてる?またうちにおいでよ。母さんもアキに会いたがってるよ。」 久々に聞くアキの声……… 慣れ親しんだその声を聞くだけで、泣きそうになった。 「………ちゃんと、食べてるよ。落ち着いたらまた家にも遊びに行くよ。」 今、僕はちゃんと笑えてるだろうか……… 笑った事なんて、あれからほとんどない。 何もかも空虚になった世界で、たとえ会えなくても、アキだけが心の支えだった。 「………そうか。高校に行っても元気でね。また連絡するね。」 そう言ってアキは少し悲しそうな、何かを押し殺して我慢しているような顔をしていた。 アキにそんな顔をさせたのは自分なのに…… それ以上アキの顔を見ているのが辛くて、早くこの場から逃げ出したかった。 「じゃあ、僕急ぐから。またね。」 振り返らずに、僕はアキから逃げた。 自分だけの力で生きていけるように。 アキに頼らず生きていけるようになれば、 またいつものように笑って過ごせるかな。 その時になったら、またアキに会いに行こう。 ………それまでは、アキに甘えない。 そう、心に決めた。

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