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第10話

高校入学式 校庭の桜は満開だった。 風が吹くたびにひらひら舞い降り、 掴もうとすると、するりと逃げてしまう。 まるで僕の人生のようだ。 手の届きそうなところにある幸せも、 当たり前のように思えた生活も、 掴もうとすれば逃げてしまう…………… 今の僕には何もない。 ………そう、何もないんだ。 そんな事を考え、 僕は校庭を散歩しながら入学式へ向かった。 今日から3年間ここで学ぶんだ…… ここが僕の居場所になるはず。 そう決意を込めて、もう一度桜を見上げた。 今度は、桜の陰が優しく僕を包んでくれた。 "さぁ、行こう!" 桜が背中を押してくれた気がした。 僕は桜にニコッと微笑み返し、 そうして一歩ずつ、歩みを進めた。 …… もう一人、桜を気怠そうに見つめていた男がいた。 このまま帰ろうかと振り返った時、 視線の先にキラキラ光るものが…… それは、桜を見上げる奈津の横顔だった。 「見つけた………」

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