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第5話

「プレイって…」 「その前にセーフワード決めような、あっセーフワードって知ってる?」 「知ってますよ!それを言われたらDomはコマンドをしばらく出せなくなる。プレイに万が一が起きないようにDomとSubがあらかじめ決めておく言葉です」 「そうそう、よく知ってるじゃん」 「馬鹿にしないでください!それくらいちゃんと学校でも習うじゃないですか」  そう、セーフワードは必ず決めなければならない。それは暗黙の了解でもあるし、法律で定められてもいる。Subが唯一Domに出せるコマンド(命令)であり最後の砦。それがセーフワードであると希は思っている。  それを決めずにプレイしようとしてきたDomをプレイルームから蹴り出したのはいい思い出だ。安い店なのでそういう輩は割と何人かいたが、強いグレアをものともせず蹴ってくる希を見て驚愕する奴らの表情を見るだけでせいせいした。毎回その後ドロップしかけたが。 「普通にRed(止まれ)でいいか。ちゃんとしたのは次から考えよう」 「え?次?」 「じゃあプレイだ。まず基本のコマンド、覚えてるよな?」 「…なんだかどっちがDomだか分からなくなってきました…」 「いいから早く、それともなんだ、ビビってんのか?」  狼狽える霞を希が急かす。霞はぎゅっと目をつぶり、深呼吸して目を開いた。拳を握りしめ、また開く。震える声でコマンドを絞り出した。 「…に、Kneel」  すとん、と、希の膝が落ちた。 「!?え、なんで?」  コマンドを出してきたDomが1番狼狽えている。今までこんなコマンドですら従ってもらえなかったことは、先程の様子からしても明らかだ。正直希にも、希だからこそ軽すぎるグレアだ。でも。 「…っ、グレア忘れなかったな、いい子だ」  そのグレアがよかった。頬を撫でるそよ風のような、足にかかるさざ波のようなその弱いグレアに、希はわざわざ自分の意思で従ったのだ。よく言われる「自然に体が従ってしまう」という感覚は分からないが、このDomに従いたいという気持ちを初めて感じた。 「…あっ!よく出来ました(G o o d b o y)、ありがとうございます」  我に返った霞がケアの言葉を掛けてくれる。それだけで心が沸き立つような歓喜を感じた。Domが自分を褒めてくれた。うれしい。 「お礼とかいいから、もっと」 「さっきまですごい柄悪かったのに、そんなふうに笑ったりするんですね…プレイってこんな感じなんだ…」 「おい、まだ終わってないぞ」 「はっ、はい!…じゃあ、うーん…」  プレイは初めてなのだろうが、こちらも初めてのようなものだ。焦らせるのは良くないとわかってはいるが、もっと命令してほしいという感情が抑えられない。 「えーと、come?」  疑問形で発せられたそれに一旦四つん這いになって霞の近くまで寄り、またKneelの姿勢になる。 「ちゃんと来ましたね、いい子です(G o o d b o y)」  今度は頭まで撫でてもらえた。目を細め、それを享受する。 「なあ、次は?」 「ええっと…」  霞が顔を赤らめ、段々しどろもどろになっていく。それはそうだ。コマンドには性的なものばかりだ。それに狼狽えるのが面白くてしょうがなかった。 「お前さあ、」 「ちょっと黙って(S h u s h)待ってください(S t a y)!」  ニヤニヤしている希に焦ったのか、霞はちらりとこちらを睨んでコマンドを飛ばしてきた。  希は自由意志でコマンドに従っているので、喋るのも動くのも自分で我慢する必要がある。正直この状態で待てをされるのはつらいが、それでも従いたい欲求の方が勝った。  悩んでいた霞がちらりとこちらを見てまた顔を赤くする。少し経って、ようやく口を開いた。 「…じゃあ、この指を舐めてください(L i c k)。ShushとStayはもういいです。ちゃんと待てて偉いですね(G o o d)」  どんなものが飛んでくるかと思えば、そんなものか。内心さらに笑いながら、指に舌を這わせる。  性経験は多い方だ。フェラも何度もしたことがある。口を開け、からかうつもりでなるべく扇情的に見えるようにゆっくりと指に舌を這わす。それを見て霞がさらに赤くなるのを目で楽しむ。 「お前手汗すごいな」 「し、仕方ないでしょう!実質初めてなんですから!」 「はいはい、お詫びに全部綺麗に舐めてあげるから」 「うう…」  それでも手を引っ込めない霞に希は気を良くして1本差し出された指を舐め続けた。 「も、もういいでしょう、綺麗にしてくれてありがとうございました(G o o d b o y)」  霞が希の頭を撫でる。撫でられるのが好きなのバレてるな、と思いながら名残惜しく指から離れた。

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