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第14話
起きるとそこは希の部屋のベッドだった。希のベッドだったが目の前に霞の顔があった。目標が達成されてしまうとは。絶対夜這いしてやろうと思っていたのに。
せっかくなので霞の寝顔を見ていると霞も目を覚ました。自分も霞とプレイするようになってからすっきり起きられるようになったが、霞も結構目覚めるのが速い。
「あ、起きましたか?」
「うん」
「…なんだかすごく疲れました…」
「ごめんな、いつもはあんな感じじゃないんだ」
「はい、あの後話しましたがお2人ともいい方でした」
「えー、何話したの?」
「それは教えませんよ、あの時のお返しです」
「ずるーい…ってかなんで俺のベッドいるの?ホテルでも頑なにツイン取って、絶対一緒のベッドで寝ようとしなかったのに」
「いや僕も断ったんですよ。でもあなたが泣き疲れて寝てしまった後、3人で運んできたら、なんというかそういう流れになってしまい…」
「そっかー俺ももっと押せばよかったな…まあいいか、来月を楽しみにしとく」
「勘弁してくださいよ…あ、そろそろ晩御飯の時間みたいですよ」
部屋を出る前に一度見回す。寮には必要最小限の物だけを持っていったので、他のものは全てこの部屋に置きっぱなしだった。読みかけだった漫画、まだクリアしていないゲーム、お気に入りの服。しかしどれにもちり一つない。手入れしていてくれたのだろうかと思うと、目頭が熱くなった。
リビングに降りると母が化粧を落としてキッチンに立っていた。両親は2人とも普段着に戻っている。夕食は希の好きなものばかりが並び、和気あいあいとした時間が流れた。
「井浦さんって希と大学一緒なのよね?どうか学校でも仲良くしてやってね」
「はい、是非」
「何かあったら言ってくれ。私達は君達のためにできる限りのことをしよう。そういえば2人で住む家はもう決めたかね?今ちょうどいい物件が余っているんだが」
「父さん、それはまだ早いって」
「早いということはないだろう。霞君だって、希と早く一緒に暮らしたいのではないかね?」
「…それは、まあ。でも、そんなに何から何まで…」
「いいんだ、希は私達の唯一の気がかりだったからね。もし結婚式を挙げるのであれば、こちらから率先して費用を負担しよう。指輪や首輪 はどうする?自分のお金で買いたいかい?」
「そうですね…こればかりは大事なものなので、自分達で買いたいと思っています。そのために僕も希さんも今バイトでお金を貯めている最中なんです」
「そう言うと思ったよ。2人でよく考えて選びなさい。希、お前も霞君と一緒によく考えるんだぞ。そして何かあればお互いによく話し合うように。答えが出なければ、私達も相談に乗るから」
「ええ、いつでも頼ってね。さっきは本当にごめんなさい。もう一度言うけど、私達も、あなた達を応援するわ。井浦さんのお母様と同じように」
「…っ、ありがとうございます」
霞が涙を拭う。希ももらい泣きしそうになって、慌てて涙をこらえた。
「希、あなたは井浦姓に入りなさい」
夕食を食べた後、真剣な顔になり、母が切り出した。言葉を返そうとした希と霞を押しとどめる。
「あなた達を捨てるわけじゃないわ。むしろ逆なの。…さっきも言ったでしょう。井浦さんが如月家に入れば、あなた達は如月家を背負うことになるわ。如月家はαやΩを産みやすい貴重な家系として庇護されている。でもそれは同時に、あなた達を縛るとても重い枷となる」
母は一旦言葉を切り、そして宣言した。
「私達の代で如月家は終わらせる。これはお父さんともよく話して前から決めていたことなの。もう時代は変わったのよ。あなた達は自由になって」
「…うん」
希には何人もの姉や兄がいた。彼らはみなΩだった。おかしいとは思っていた。いくらΩの家系でも、産まれてくる子供が全員Ωになるはずがない。それに気づかないふりをしていた。でも彼らの中にはαのもとに嫁いだ者もいれば、α以外と結婚した者もいたし、結婚せずに独り立ちした者もいた。そして、霞がきっとその最後の一人なのだ。
「わかったよ、母さん」
その想いを受け止めて、希は答えた。
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